ユニコーン〜卒業旅行で出かけた3人の女子大生が温泉の露天風呂で見上げたのは夜空に煌めくいっかくじゅう座だった
この物語は、
三重県・美杉リゾートを舞台にした
オリジナルボイスドラマです。
卒業を迎える3人の女子大生が、
里山で過ごす何気ない時間の中で、
それぞれの未来と向き合っていきます。
【ペルソナ】
▪️杉月=内向的でコミュ症気味の女子大生。浅草の実家住まいで両親は江戸っ子。同級生の美夏・和音とはなぜか気が合う。普段はヴィーガン《種崎敦美風》
▪️美夏=積極的で陽キャな女子大生。横浜生まれ横浜育ち。杉月の意見は常に尊重しながら文句を言う。自分勝手なところが多いがとっても友達思い《早見沙織風》
▪️和音=歴史好きの”レキジョ”女子大生。実家は秋田。埼玉県の浦和に一人暮らし中。喋ると東北(秋田)訛りになるのでほとんど口を開かない《悠木碧風》
【シーン1:名松線伊勢奥津駅/降り立った2人】
■アナウンス「まもなく終点、伊勢奥津、伊勢奥津です。伊勢奥津でお降りのお客様は前寄車両の一番前のドアをご利用ください」
■SE/伊勢奥津駅にてディーゼル気動車の音
「ちょっとぉ!
終点じゃんここ!」
「あ」
「ごめん・・」
「もう〜、美杉ってのは杉月のプランなんだからねー。
しっかりしてよぉ」
「ごめんね、美夏・・」
「そんなぁ・・
責めてるんじゃないから謝らないでよぉ・・
とにかく終点の・・なんだっけ?」
「伊勢奥津駅」
「そ。
伊勢奥津駅で降りて、ポジティブに、次、考えよ。次!」
ってか、文句言ってたの、美夏の方じゃん。
私の名前は杉月。
東京の女子大に通う4年生。
どちらかと言うと、人と話すのが苦手。
夜空が大好きな星座ヲタク。
でもって、隣りの陽キャが、同級生の美夏。
横浜生まれの横浜育ち。バリバリのハマっ子。
その隣りのメガネ女子は、同じく同級生の和音。
秋田出身。
訛りを気にしてか、あまり喋らない。
口下手なのは私といい勝負。
見ての通り、私たち3人は女子卒旅真っ最中。
見ての通り、私たち3人はみんなバラッバラのキャラ。
見た目も性格も、まるで、シリウスと月と道端の小石。
って、小石はもちろん私だけど。
とはいえ、美夏は不思議なくらい私の意見を尊重してくれる。
和音は、ぼそっと呟く言葉に重みがある。
卒旅の行き先も、3人で話し合った。
渋谷のカフェで3時間も居座って、
旅行サイト見ながらあーでもない、こーでもないって。
美夏が出したのは大人気のメジャーなリゾート施設。
最初、海外とか言ってたっけ?
和音はレキジョらしく、歴史的遺産や文化財のあるところ。
奈良とか京都とか主張してた。
でも、決まったのは結局、私が出した三重県の”美杉リゾート”ってとこ。
なんで?どこそれ?
”いなかツーリズム”。
このワードが、私たち3人のハートに刺さった。
と言っても、美夏は「パンやピザの手作り体験」。
あと、「ビールと温泉」に惹かれたらしい。
おじさんかっての。
和音は「伊勢本街道歴史巡り」一択。
北畠氏がどうとか言ってったっけ。
私のお目当ては、「森林セラピー」と「星空ナイトツアー」。
浅草の実家暮らしだから「里山」って言葉に憧れがあるのかなあ。
それに、もうひとつ見つけたいものがあるんだ。
「まんず、降り(お)れが⤴」
和音が足取りも軽く改札を抜けていく。
私たちは折り返しの列車には乗らず、和音のあとを追った。
「あ、空気が美味しい」
思わず声が出ちゃった。
和音は目を瞑って深呼吸してる。
美夏は駅舎の前で電話中。
「え、ホントですか!
ありがとうございます!
では、お言葉に甘えて・・」
「なしたっけ?」
「ホテルに聞いたら、迎えに来てくれるって。
だけど、チェックインまで時間があるから
よかったら駅周辺を散策してきませんか、って・・」
「んだな、それええな」
和音は、いつになく饒舌だ。
これでも。
「ガイドツアーってのもあるらしいよ」
「今日はせっがぐだがら、自分だぢだけで探検してみねが?
ガイドツアーは明日にして、答え合わせするのもいいんでねが」
「えー、明日も歴史探訪なのー?」
美夏が、眉間に皺を寄せながら、楽しそうに笑う。
私は小さな声で
「賛成」
と呟いた。
「あれ見でけれ」
目をキラキラさせて、和音が口を開く。
駅舎の横にそびえる、タンクのような建物。
蔦がからまって(←※状況によりトル)レトロ感満載。
「給水塔だな。SLさ入れる水、溜めでおいだんだど」
「SL?そんなん走ってたんだ」
「国の文化財だし」
美夏は少しだけ感心したあと、
「あー、でもなんかお腹減っちゃったぁ」
と、話題はそっちへ。
さっきから、誰にも出会わないけど、
食べるとこなんてあるのかなあ・・・
【シーン2:伊勢本街道「奥津宿」/歴史散策】
■SE/ジョウビタキやカワセミの鳴き声
結局私たちは、チェックインまで伊勢奥津駅周辺を散策することになった。
まずは観光案内所でパンフレットをゲット。
和音のリードで伊勢本街道「奥津宿」をのんびり歩き、古民家カフェへ。
「うわ、杉月、やったじゃん。
ヴィーガンのランチだよ、ヴィーガン」
え?
ヴィーガン料理?
卒旅では、ヴィーガンは封印するつもりだったのに。
まさかこんなところでヴィーガン料理が食べられるなんて。
ちょっとだけ感動。
お腹が満たされたあとは、古い家並みが続く奥津宿を散策。
家の前にかけられたお揃いの暖簾の前で
美夏の自撮り棒が登場。
■SE/スマホのシャッター音「パシャッ」
美夏はそのままSNSにアップする。
「すごっ。
これめっちゃ映えない?
ほら、見て」
「んだな」
確かに。
美しい暖簾が並ぶ古民家の前でポーズをとるギャル。
カラフルな服装がスマホの縦画面に輝いている。
センターはもちろん美夏。
冬のまぶしい日差しが澄んだ空気に輝く。
こうして私たちの卒旅が始まった。
【シーン3:美杉リゾート/コテージ】
■SE/キビタキの鳴き声
「すごおおおおおおおい!
こんないなかに、こんなオシャレなコテージがぁ!
しかもアタシたち3人でひとりじめ!」
「ひとりじめ、じゃなくて、3人だべ」
キャビンタイプのコテージ。
木の香りがきもちいい〜。
そっか、美杉って、林業のまちだもん。
本格的なログハウスが森の中によく似合う。
なんか、そんな映画もあったっけ。
SOMA、SOMAコテージ。
漢字で書くと、「木」編に「山」。
確か、木材を切り出すための山って意味でしょ。
すてき。
「ちょっとちょっとちょっとおお!
デッキにジャグジーまでついてるよ!
アタシ、夕食の前に入っちゃうから!」
「わも」
和音はもう、秋田弁を隠そうともしていない。
ここは素のままの自分でいられる場所。
私たちはみな、はしゃいで服を脱ぎ、デッキへ走っていった。
【シーン4:夕食バイキング】
■SE/バイキング会場の雑踏
「きゃ〜!
目移りして選べな〜い!」
夕食のバイキング。
美夏のテンションはMAXに。
新鮮な海の幸や、ジューシーなお肉。
なんと魚の解体ショーまで。
和音はジビエ料理に興味が尽きないみたい。
シェフをつかまえていろいろ尋ねている。
私も、卒旅のときは、ヴィーガンを封印。
みんなと一緒にお祭りのような食事を楽しんだ。
【シーン5:露店風呂】
■SE/露店風呂の音(湯が流れる音)
「ローカル線の旅から始まって、
里山の散策に、コテージにジャグジーにバイキング。
で、シメに露店風呂って!
なんか、ネットの情報より、めっちゃいいじゃん!」
静かな森の中に美夏の声が響き渡った。
私と和音は目を合わせてくすっと笑う。
「美夏、和音。ありがとうね。
卒旅を、私が選んだ美杉リゾートにしてくれて」
「そだねー。
のぞみ降りてから、ローカル線を乗り継いで。
終点まで行っちゃったときは、どうなるかと思ったけど」
「杉月の森林セラピーは明日の予約だべ」
「うん。
でもね、本当はもっと楽しみにしてることがあるの」
「えー。なにー?」
「私、ずっと見たかった星があるんだ」
「星?」
「うん」
「なんて星?」
「いっかくじゅうざ座」
「いっかくじゅう?」
「そ、ユニコーン」
「聞いたごどねな」
「冬の大三角の真ん中にいる、小さくて暗い星座。
4等星以下の暗い星ばかりだから、東京じゃ見えない。
空気が澄んでいて、人工の灯りが少ないところじゃないと。
ほら、”幻のユニコーン”みたいでしょ」
「そんなん、ここで見れるの?」
私は黙って南の夜空を指差す。
「え?
・・・どこ?」
「冬の大三角はわかる?
左側の赤っぽいのが、オリオン座の肩にあるベテルギウス。
右下に白く光ってるのが、おおいぬ座のお鼻、シリウス。
あと左上で光ってるのが、こいぬ座のプロキオンだよ。
この3つの星の真ん中に、ユニコーンが隠れてるんだ」
「あ・・・見えだがも」
「和音、すごい。
ユニコーンを見つけると幸せになれるのよ」
「ちょっと待ってよ。どこ〜?」
「ベテルギウスから、左のプロキオンに向かって
ゆっくり指でなぞってみて。
ユニコーンは右向きに寝そべってるわ」
「う〜ん・・」
そう言って美夏は首を斜めに。
「ベテルギウスに近いのが頭だよ」
「あ!」
「見える?」
「うん・・
首から背中があそこで・・・
三角形のまんなかが胴体?」
「正解」
「すてきな彼に出会えますように!」
「流れ星でねんだがら」
よかった。
ユニコーンは心のきれいな乙女にしか見えないんだ。
「ねえ、私たち3人とも・・・」
と言いかけたとき、和音が美夏に目配せをした。
「ねえ、杉月」
「な、なあに?」
「これ、もらってくれる?」
「え?」
美夏が脱衣所から持ってきたのは、プレゼントの箱。
「卒業したら、私は沖縄の大学院で海洋研究だし、
和音は秋田へ戻って農業じゃん。
でも、杉月は・・・」
「あ・・・」
そう。
私は、群馬の福祉施設で介護士として働く。
「な〜んか杉月がいっちゃん大変そうだったから・・」
「和音と相談して買ってきたんだ」
「オーガニックコットンのタオルだよ」
「現場で使いやすいタオルだべ」
「そんな・・・
美夏・・和音・・ありがとう」
思わず、私はお湯を顔にかける。
ウルってる顔、見られたくないから。
「杉月が選んだ星空ナイトツアーも明日の夜だよね」
「うん・・」
「ようし。
大学最後の冬休み。
思いっきり楽しむぞぉ!!」
「おー!」「おー!」「おー!」
露天風呂の湯気が、美杉の夜空に上っていく。
その上には、星たちの森を駆け抜けるユニコーン。
それはまるで、別々の道を歩き出す私たちに、
エールを送っているようだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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