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夜明け

夜明け。  

アイギスの結界が朝陽を屈折させ、ゴミ捨て場は毒々しい琥珀色に染まっている。  

俺の隣には、昨日脱ぎ捨てたはずのシャツを羽織ったラジエルが、無言で座っていた。


「……また勝手に着てるな」


「……ん」


 ....それだけだ。  

「効率がいい」だの「データ」だの、そんな言い訳すらもうない。

ただ、俺の匂いに鼻先を埋めて、薄く呼吸しているだけ。

その依存の仕方が、言葉以上に気味が悪かった。


 外に出ると、ブリュンヒルデが錆びた大剣を無言で研いでいた。  俺が昨日「これはもう直さない。楽にしてやれ」と言い放った、屍だ。


「……ブリュンヒルデ、やめろ。そいつはもう、刃を立てる心根すら残ってない。それはエゴだ。」


「死なせません」  

研ぐ手は止まらない。


「主様が一度でも触れたものです。塵になっても、私が繋ぎ止めてみせます」


 彼女の指は、荒い砥石で削れて血が滲んでいる。だが、その痛みすら悦びに変えているような、濁った瞳。  

俺の【修復】は、こいつらを救ったんじゃない。

 「主がいないと形を保てない」という、欠陥品に改造しただけにすぎないんだ。


「レン、様……っ」


 結界の端に、アリオスがいた。  

昨日のような元気は何処へやら。聖剣に腕を無理やり引っ張られ、肩の関節が外れかかっている。剣が、主人の肉体を引きずってまで俺のところへ来ようとしているのだ。


「……腕、外れてるぞ」


「剣が……僕を、放してくれなくて……っ」


 俺は無言でアリオスの腕を掴み、強引に肩をはめ直した。

 グシャ、と嫌な音が響く。アリオスが悲鳴を上げるが、俺の心はもう動かない。  俺の手が聖剣の柄に触れた瞬間、狂ったように暴れていた刃が、まるであるじに撫でられた犬のように静まった。


「……ここまで来ると気味が悪いな、どいつもこいつも」


 俺が吐き捨てると、後ろで見ていた魔王が低く笑った。  

彼女は、俺に直された魔剣を自らの胸に突き刺すように抱いている。


「貴様が悪い。……その指で、私たちに『極上の生』を教えこんだ。……今さら、ただの鉄屑に戻れると思うな。....もう、戻れない。」


 足元に転がっていた勇者のクッキー。  

俺はそれを一つ拾い、口に放り込んだ。  

甘い。吐き気がするほど、暴力的に甘い。


「……次は、何を直せば気が済むんだ」


 俺の言葉に、ラジエルが背後からそっと首に手を回した。  冷たい。生きた女の体温じゃない。


「……世界。……全部だよ。……だから、オーナーが全部、直して」


 俺は、彼女の冷たい腕を振り払うことすら忘れて、琥珀色の空を眺めていた。  

リサイクルショップなんて、もうどうでもいい。  

俺は、自分が生み出してしまったこの「最愛の地獄」を、どうやって畳めばいいのかだけを考えていた。

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