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世界が・・・

 魔王が店の用心棒を自称し始めてから、ゴミ捨て場の空気はさらにカオスを極めていた。  

 戦乙女が薪を割り、魔王が掃除をし、聖女が結界を磨き、賢者が寝る。  

 この世の終わりみたいな光景だが、俺にとっては「まだ開店すらしていない店」の日常だ。


「……あ。……オーナー、外。……不法投棄、確認。……かなり、重いデータ」


 膝の上でスリープモードに入っていたラジエルが、珍しく不快そうに眉を寄せた。


 黄金の結界の境界線。  

 そこに、帝国の魔導輸送車が横付けされ、大きな「鉄の箱」が乱暴に投げ捨てられた。  箱には何重もの鎖と、見たこともないほど禍々しい封印札が貼られている。


「またかよ。……うちは粗大ゴミ置き場じゃないんだぞ」


 俺は文句を言いながら、アイギスに結界を開けさせて外へ出た。  箱の中からは、心臓の鼓動のような、ドクン、ドクンという重い音が響いてくる。


「主様、お下がりを。……その箱の中身、魂が腐りきっています。……かつての同類(英霊)の成れの果てでしょうが、もはや正気を保っていません」


 ブリュンヒルデが、かつてないほど鋭い殺気を放ちながら剣を抜いた。  

 だが、俺の目は、箱の隙間から溢れ出す「真っ黒な涙」を見ていた。


「……【鑑定】」


【名称:試作型救世主・零号機(完全破損)】


  状態:一万回の敗北による精神崩壊。帝国により『存在の削除』が決定済み


 鑑定結果を見た瞬間、俺の胃の奥が熱くなった。  

 帝国は、勝てる勇者を作るために、何度も何度も「失敗作」を作り、それをゴミとして捨ててきたのか。


「……開けるぞ。ブリュンヒルデ、援護はいらない。これは、俺の仕事(修理)だ」


 俺が封印に触れた瞬間、鉄の箱が内側から弾け飛んだ。

 中から現れたのは、ボロボロの拘束衣を着せられた、灰色の髪の少女。  

 彼女の瞳には光がなく、ただただ破壊の衝動だけが渦巻いている。


「ア……アアアアアアアアッ!!」


 彼女が叫ぶと同時に、周囲の空間がガラスのように割れた。  

 帝国の「禁忌」。一万回殺されても死ねないように改造された、不死身の兵器。


「……オーナー、危ない。……彼女の攻撃、ガード不能の『確定ダメージ』。……まともに食らうと、存在が消滅するよ。……たぶん」


 ラジエルの警告も聞かず、俺は少女の細い首筋に手を伸ばした。  彼女の放つ「絶望の波動」が、俺の皮膚を焼き、魔力を削り取る。


「痛かったろ。……もう、負けなくていいんだぞ」


 俺は彼女を抱きしめた。  

 そして、これまでで最大の魔力を、彼女の砕け散った魂の破片へと注ぎ込む。


「――【全記録修復フル・リストア】」


 ゴミ捨て場が、真っ白な光に包まれた。

 一万回の死という「バグ」を、たった一回の「幸福な記憶」で上書きしていく。    

 光が収まったとき。  

 少女の拘束衣は、真っ白なワンピースへと変わっていた。  

 彼女は俺の胸の中で、初めて人間らしい、穏やかな寝息を立てている。


「……あ。……一万回の敗北フラグを、たった一回の『抱擁』でクラックした。……オーナー、また無茶苦茶。……でも、嫌いじゃないよ」


 ラジエルが少しだけ口角を上げた。


「主様。……また、物騒な『家族』が増えましたね。……これでは、私の守護範囲が足りません」  アイギスが少し寂しそうに呟く。


 そして。  

 帝国側では、送り込んだ「最終兵器」の信号が消えたことで、パニックが起きていた。  

 彼らはまだ知らない。  

 自分たちが捨てた「ゴミ」が、今、世界で最も平和で、世界で最も危険な「リサイクルショップ」の店員として採用されたことを。


「……よし。これで店員は五人か。……そろそろ、本気でレジの打ち方を教えないとな」


 俺の言葉に、戦乙女と魔王が同時に「殺気」を込めて頷いた。  リサイクルショップ・アイゼン。  

 それはついに、**神も魔王も手出しできない「世界の特異点」**として、正式に(?)オープンしようとしていた。

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