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その魔剣、危険。

 魔王エキドナが突き立てたものは、

 魔界の国宝――魔剣『ダインスレイフ』。  

 かつて一振りで万の軍勢を呪い殺したとされる伝説の刃だが、今はひどく煤け、刀身からはどす黒い脂のような魔力が滴り落ちていた。


「……酷いな。無理やり魔力を詰め込みすぎて、中が『目詰まり』してる。これじゃあ、持ちあんたの魂まで汚染されるぞ」


 俺が不用意に手を伸ばそうとすると、魔王の側近たちが一斉に色めき立った。 「貴様、素手で触れるな! その呪いは一国を滅ぼすぞ!」


 だが、俺の指が触れた瞬間――ジ、と音がした。  呪いの黒霧が、俺の手のひらに吸い込まれるように消えていく。


「……あ。……オーナー、また無茶してる。……その呪い、一ミリグラムで一般人の精神が100回はBANされる猛毒。……なのに、オーナーの魔力、それすらも吸収。……チート乙」


 ラジエルが呆れたように呟く中、俺は集中した。  魔剣の芯にある、錆びついた「誇り」を見つけ出し、汚れを剥いでいく。


「――再起動リブート・フルメンテナンス」


 瞬間。  ゴミ捨て場の一角が、真夜中の太陽のような漆黒の輝きに包まれた。


 魔剣から放たれた衝撃波が、アイギスの黄金結界を内側から揺らし、ブリュンヒルデの銀髪を激しくなびかせる。  光が収まったとき、俺の手には、星空をそのまま切り出したような、透き通るほど美しい黒の長剣が握られていた。


「よし。詰まってた魔力を抜いて、回路を整理しておいたよ。これで暴走もしないし、あんたの負担も減るはずだ」


 俺が何気なく魔王へ剣を返すと、エキドナはそれを受け取ることすら忘れ、呆然と自らの愛剣を見つめていた。


「……信じられぬ。……私の魔力を、これほど滑らかに、かつ無限に増幅させるだと? これはもはや魔剣ではない。……『神剣』の上位互換、世界の理そのものだ」


 魔王は震える手で剣を握りしめ、そして……ゆっくりと、俺の前に跪いた。  その瞳には、恐怖を通り越した、純粋な「崇拝」が宿っている。


「……理解した。貴様は、対価を求めないのではない。……この世界の『価値』など、貴様の御手おてにかかれば、いくらでも生成できるから必要ないのだな」


「いや、普通に生活費は欲しいんだけど……」


「これほどの恩、単なる財宝で返せるとは思わぬ。……レンよ。貴様がこの世界の新たな秩序ルールとなるのであれば、魔界は本日より、貴様の『リサイクルショップ』の支店となろう」


「勝手に支店を増やさないで! 魔界なんて仕入れに行けないだろ!」


 魔王は俺の抗議を無視し、立ち上がると背後の魔将たちに命じた。


「聞け! 本日よりこの地は聖域である! これより私は、この御方の『修理作業』を邪魔する全てのバグ(敵)を排除するため、ここで警護に当たる!」


「……あ。……魔王、完全に懐いた。……攻略完了、早すぎ。……フラグ崩壊して、このゲーム、もうエンディングに向かってる」


 ラジエルがまた眠そうに目を閉じる。  

 俺の店の前には、戦乙女、聖女、賢者に加えて、世界最強の用心棒(魔王)が居座ることになった。


 そしてその日の夕方。  勇者が魔王に勝てないと踏んだ帝国が、ついに「禁忌の召喚儀式」を始めたという知らせが、ラジエルのデバッグ能力によってもたらされる。


「……オーナー。……帝国が、新しい『ガラクタ』を呼び出そうとしてる。……かなり、性格の悪いやつ。……直す?」


 俺はため息をついた。  

 どうやら、リサイクルショップの開店休業状態は、まだまだ続きそうだった。

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