勇者が来店しましたが、接客(殲滅)してもよろしいですか?
黄金の結界が空を割り、伝説の武具が星のように降り注ぐ店。 そんな「神域」に踏み込んできたのは、ボロボロの鎧を纏った一人の少年だった。
「……ここか。どんな『残骸』でも蘇らせるという、禁忌の工房は」
少年の名は、アリオス。帝国が「魔王討伐の道具」として作り出した、当代の**【勇者】**である。 彼の手には、刃が砕け、ドス黒い魔族の返り血で腐食した一振りの剣があった。かつて聖剣と呼ばれたものの、成れの果てだ。
「……あ。……フラグ持ちのNPCが来た。……耐久値、残り1。……今すぐ折らないと、データの無駄だよ。……たぶん」 俺の膝で微睡んでいたラジエルが、眠そうに告げる。
「折らないよ。……君、その剣、もう限界だ。貸してごらん」
俺が手を伸ばすと、アリオスは縋り付くように剣を差し出した。 鑑定するまでもない。この剣は、帝国が無理な強化を繰り返した結果、内側から魂が壊されている。
「……【魂の修復】」
俺が触れた瞬間、工房に**「鐘の音」が響き渡った。 汚れが剥がれ落ち、欠けた刃が光の粒子で編み直されていく。それは修理というより、「かつて世界を救った瞬間の奇跡」**を現代に固定する作業だ。
眩い閃光とともに、少年の手には、神話の時代からそのまま抜け出してきたような白銀の聖剣が握られていた。
「直ったよ。……代金? ああ、いらない。これは俺が勝手にやりたくてやったことだから。君のその顔を見てたら、金を取る気にならなくてね」
俺は笑って言った。だが、その背後でブリュンヒルデの空気が変わった。 「……流石は我が主様。対価に『金銭』などという卑俗なものは求めない。……代わりに、その剣を振るうたびに、貴様の運命は我が主のものとなる。……そういう契約(呪い)ですね?」
「違うって! 純粋な善意だよ!」
だが、俺の「タダでいい」という一言は、アリオスの中でとんでもない衝撃として処理された。 絶望の淵にいた少年には、その無欲さが**「神の慈悲」、あるいは「全てを支配する者の傲慢」**に見えたのだ。
「……代金はいらない、だと? 勇者の全財産すら、この剣の価値には届かないということか……。レン、貴様は……一体どれほどの高みから、世界を見下ろしているんだ……!」
アリオスは震える手で聖剣を握りしめ、そのまま雷光となって飛び去った。 彼は、この日から触れ回ることになる。 **『辺境には、世界の全ての価値を否定し、無償で奇跡を配り歩く「真の王」がいる』**と。




