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賢者の杖は、すべてを「効率化(スキップ)」したがる

最強の「ブリュンヒルデ」と最強の「アイギス」が、俺のテントの前で火花を散らしている。 「主様の邪魔です。その引きこもり結界を解きなさい、この鉄屑」 「嫌です。主様を汚す戦狂いのあなたこそ、そのガラクタと一緒に溶鉱炉へどうぞ」


 ……もういい。勝手にやってくれ。  俺は現実逃避するように、昨日ゴミ捨て場の奥で見つけた、ボロボロの「杖」を手に取った。  それは杖というより、ただの折れた木の棒に見えたが、鑑定すると驚くべき文字が並んだ。


【名称:全知の杖・ラジエル(破損率99%)】 【状態:演算回路がフリーズしています。現在、この世界を『クソゲー』と認識し、スリープモード中】


「……よし、これを直してまともな相談相手になってもらおう」


 俺は藁をも掴む思いで、スキルの魔力を注ぎ込んだ。  すると、木の棒がリボルバーのようなシリンダーを持つ機械的な杖へと変形し、その上空に半透明の少女が、ふわふわと現れた。


 大きなカーディガンを羽織り、眠そうな目でこちらを見つめる桃髪の少女。  彼女はゆっくりとあくびをすると、空中で寝転がったまま、ゲームのコントローラーを操るような手つきで空を仰いだ。


「……ん。……再起動リブート完了。……おはよう、オーナー」 「おはよう。君がこの杖の……」 「ラジエル。……でも、名前なんて、ただのフラグ管理用の変数だから、好きに呼んでいいよ。……たぶん」


 彼女は虚空を見つめたまま、パチパチと指を鳴らす。  すると、彼女の周囲にだけ、ログのような文字列が高速で流れ始めた。


「今の状況、スキャンした。……戦乙女と聖女が、オーナーを巡って不毛なPvP(対人戦)中。……効率が悪い。……全部まとめて、イベントスキップ(強制消去)していい?」


「ダメだよ! 仲間なんだから!」


「……ちぇ。……オーナーは、縛りプレイが好き。……メモった」


 ラジエルは感情の起伏がない声でそう言うと、俺の肩に頭を預けてきた。  ブリュンヒルデが「殺気」を放ち、アイギスが「結界」を強めるが、ラジエルはどこ吹く風だ。


「……あ。……オーナーをクビにした騎士団が、増援を呼んだみたい。……数、五千。……あと三十秒で、この座標に広域殲滅魔法が着弾するよ。……たぶん」


「ええっ!? 三十秒!? 逃げないと!」


「……無駄。……移動の工数がもったいない。……私が、今の世界の『バグ』をパッチで修正した。……見てて」


 彼女が杖を一振りする。  すると、空から降ってきた巨大な火球が、空中で突然**「花びら」に変わって、ひらひらと舞い落ちた。  さらに、遠くに見える騎士団の軍勢が、全員「カエル」**の姿に変えられていく。


「何をしたんだ……?」


「……物理演算を、少し書き換えただけ。……火を花に変え、敵を無力なMobに変える。……これが一番、攻略の効率がいい。……ふぁ、眠い」


 彼女はそう言うと、俺の膝の上に丸まって目を閉じた。


「……これで、帝国も沈黙する。……オーナーは、安心して、お店屋さんごっこをしてて。……あとのバグ取り(敵の抹殺)は、私が寝てる間に、バックグラウンドで処理しとくから……」


「頼むから表でやって! あとお店屋さんごっこじゃなくて商売なの!」


 最強の攻撃、最強の防御に加えて、**「世界の法則を書き換える超然デバッガー」**まで仲間になってしまった。  俺の店が「普通のリサイクルショップ」として開店できる日は、さらに一光年ほど遠のいた気がした。

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