鉄壁の聖女は、主様を閉じ込めたい
帝都を火の海にするのだけはなんとか勘弁してもらい、俺たちは廃墟同然のゴミ捨て場の隅っこに、小さなテントを張った。 ここを仮の「リサイクルショップ・アイゼン」とする。
「主様、本日の『修復』のノルマはありますか? 近隣の軍事施設を襲撃し、新鮮なガラクタ(捕虜)を仕入れてまいりましょうか?」 「ブリュンヒルデ、君は一度、接客用語の研修を受けたほうがいいと思う」
銀髪を揺らし、殺る気満々でエプロン(俺の私物)を付けた戦乙女を宥めながら、俺は次の「商品」に手を伸ばした。
それは、瓦礫の山に半分埋もれていた、ひどく歪んだタワーシールドだった。 表面には無数の傷。そして、中から「ううっ……外、怖い……」という小さな声が聞こえてくる。
「……【鑑定】」
俺の目に、その盾の正体が映る。 かつて一国の災厄を防ぎきり、その代償に魂が砕けてしまった伝説の聖盾『アイギス』。現在は「防御力がマイナス100」という、持っているだけで背中から刺されるレベルの呪物だ。
「よしよし、怖くないぞ。今、直してやるからな」
俺がスキルの魔力を流し込む。 バキバキと金属が鳴り、歪んでいた盾の形が、まばゆい黄金の輝きとともに整っていく。 呪いが浄化され、真っ白な光の中から現れたのは――。
「……あ。……主、様?」
盾の中から、ぶかぶかの白いローブを纏った、内気そうな少女が現れた。 守護聖女の魂を宿した、聖盾の精霊だ。
「よかった、成功だ。俺はレン。今日から君のオーナーだ。よろしくな」
俺が笑顔で手を差し出す。 すると聖女は、ボッと顔を赤くし、小刻みに震えながら叫んだ。
「お、オーナー!? 私、初めて、触られました……っ。こんなに優しく、私の『傷』を撫でてくれるなんて……。もう、あなた以外、信じられません!」 「あ、いや、仕事(修理)だからね?」
嫌な予感がした。 この子もまた、ブリュンヒルデと同じ、いや、それ以上に「重い」目をしている。
「主様、この世界は汚れすぎています。あの愚かな騎士団も、主様を追放した帝国も、主様に触れる資格などありません。……主様の純粋さは、私だけが守ります!」
聖女が祈るように手を合わせると、店の周囲に黄金の巨大な半球体――**絶対不可侵領域**が展開された。
「え、ちょ、これ何?」
「半径十キロメートルの空間隔離です。これで不潔な外部の人間は一人も入ってこれませんし、主様もここから一歩も出る必要はありません。一生、私と一緒にこの盾の中で過ごしましょう……!」
「ダメだろ!! 店が開けないだろ!!」
俺は叫んだ。 目の前には、最強の攻撃力を持つ戦乙女(帝都を更地にしたい)と、最強の防御力を持つ聖女(俺を監禁したい)が揃ってしまった。
「主様、邪魔な『盾』が現れましたね。わかります。修復の邪魔ですから、私が今すぐこの結界ごと粉砕して差し上げましょう」 「やめて! 仲間割れしないで! 結界が壊れる前に俺の精神が壊れる!」
俺が頭を抱えていると、結界の外側で、さっきの騎士団の残党たちが必死に剣を振るっているのが見えた。 どうやら、奪われた伝説の武具を取り戻しに来たらしいが、黄金のバリアに触れた瞬間にショック死している。
「……ねえ、これ本当にリサイクルショップになるの?」
客が一人も来れない(物理的に死ぬ)店。 俺の「穏やかな修理屋生活」への道は、どんどん遠ざかっている気がした。




