本日開店
世界が白く塗り潰されていく中、俺はただひたすらに「叩き直して」いた。
空を、大地を、そして今にも消えそうな彼女たちの存在そのものを。
神様が「いらない」と切り捨てたものを、俺が「必要だ」と定義し直す。
それはもはや修理などではなく、新しい世界を一から創り上げる行為だった。
「……あ。……書き換え完了。……世界設定、管理権限……オーナー、奪取確認。……お疲れ様。……もう、大丈夫」
ラジエルの声が、驚くほどはっきりと耳元に響く。
次の瞬間、俺はゴミ捨て場の地面に大の字で倒れていた。
空は、かつての毒々しい琥珀色ではなく、どこまでも澄み切った青。
管理者の姿も、あの耳障りな声も、もうどこにも存在しなかった。
「主様! お目覚めですか!」
ブリュンヒルデが、心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。
白銀の甲冑は、俺が修復したあの時のまま、美しく輝いていた。
「……ああ。……終わった、のか?」
「ええ。あなたが世界を『直して』しまったせいで、神様も呆れて帰っていったみたいよ。……本当に、無茶をするんだから」
エキドナはそう言いながら、俺に手を貸して立たせてくれる。
周囲を見渡すと、不時着した空中要塞が、ゴミ捨て場の象徴のように鎮座していた。
そのハッチには、真新しい木製の看板が掲げられている。
『アイゼン・リサイクル
何でも直します。神の呪いから、恋人の形見まで』
……数か月後。
ゴミ捨て場は、もはや死の場所ではなかった。
帝国の元兵士、かつての英雄、そして遠方の村からやって来た農夫たち。
世界中から「捨てられたくないもの」を抱えた人々が集まり、いつしか賑やかな街のようになっていた。
「オーナー。……接客、交代。……私は、クッキーの『改良』で手が離せない。……食べて。……毒見、必要」
ラジエルが、少し焦げたクッキーを差し出してくる。
一口かじると、以前よりもずっと「人間臭い」甘さが広がった。
「……少し、砂糖を入れすぎだな。……まだ、直す余地がある」
「……ん。……じゃあ、今夜。……一晩かけて、二人でじっくり『修復』。……異論は、却下」
感情の宿った瞳で、ラジエルがいたずらっぽく微笑む。
「おい、ラジエル! 主様の夜の時間は、私の剣の手入れに使うと決まっているだろう!」
「ふん。重力制御の調整こそ最優先だ。貴様ら、下がっていろ!」
「あ、あの……! 聖域の結界メンテナンスも……!」
相変わらずの喧騒。
直りすぎて、むしろ以前より手に負えなくなった最強の「ガラクタ」たち。
俺は小さく溜息をつき、腰を上げた。
世界はまだ壊れている。
完璧な物語なんて、どこにも存在しない。
だが、壊れているからこそ、直す楽しみがある。
「……さあ、開店だ。……壊れてるなら、何でも持ってこい。……俺が、全部直してやる」
店主の、乾いていながらも確かな自信を帯びた声が、
新装開店したゴミ捨て場の青空へと、いつまでも響き渡っていた。




