一時間で帝国が滅びそうなんですが?
「ひっ、ひぃぃぃ! 逃げろ、化け物だッ!」
さっきまで俺を笑っていたはずの帝国騎士団が、無様な悲鳴を上げて四散していく。 無理もない。 空に浮かぶ銀髪の少女――ブリュンヒルデの背後には、俺が「修理」した数百のガラクタ……いや、神話級の武具たちが、まるで星のように輝きながら整列しているのだから。
「主様の行く道を汚す塵芥共。その魂、洗浄するまでもありません。……一斉掃射」
彼女が細い指をスッと振り下ろした。 瞬間、空から降り注いだのは、光の雨。 それはかつて歴史の闇に消えたはずの、伝説の聖槍や魔剣の「残響」だ。
ドゴォォォォォンッ!
凄まじい轟音とともに、帝都の堅固な外壁が、まるで濡れた紙のようにシュレッダーにかけられていく。
「あー! あー! 止めて! やめて! それ、修理代より高くつくから!!」
俺の声は、大爆発の音にかき消された。 まずい。非常にまずい。 俺はただ、追放された後の生活費を稼ぐために、手元の鉄屑を売り物にできる程度に整えただけなのだ。 それがどうして、「広域殲滅兵器」として起動しているんだ。
「報告を、主様。帝都第一防衛線、および騎士団の主力は、わずか三秒で『処理』完了いたしました。次は、あの忌々しい皇帝の玉座を、薪のサイズに切り分けに行きます」
ブリュンヒルデが、ふわふわと俺の隣に降りてきて、誇らしげに胸を張る。 その顔は、まるでお手伝いをして褒めてほしい子犬のように無垢だった。
「リサイクルって言わないで! あれは破壊っていうんだよ! ブリュンヒルデ、君、一度落ち着こう? 俺は平和にショップをやりたいだけなんだ」
「……ショップ、ですか?」
戦乙女は、小首を傾げた。
「はい。武器を売り、防具を直し、人々を笑顔にする。それが俺の夢なんだ。帝国を更地にして、誰に商品を売るつもりなの?」
俺の至極真っ当な正論に、ブリュンヒルデはハッとした表情を浮かべた。 ……よし、通じたか?
「……なるほど。流石は主様。深謀遠慮、恐れ入りました」
「わかってくれた?」
「ええ。つまり……この国の人間を一度全員『素材』に戻し、主様の店で売るための『より聞き分けの良い奴隷』に再構成しろ、ということですね?」
「違う! 全然違う! どこをどうアプデしたらそんな解釈になるの!?」
彼女の思考回路が、俺の修復によって強固になりすぎている。 「主様の役に立ちたい」という純粋すぎる意志が、全ステータスを破壊の方向に全振りさせていた。
その時。 ガレキの山の中から、一人の男が這い出してきた。 俺をクビにした、あの団長だ。
「な、なんだ……この力は……。レン、貴様、何を仕込んだ……!」
「あ、団長! ちょうどよかった、彼女を止めるのを手伝って――」
「黙れ、このゴミ屑がぁッ!」
団長が逆上し、腰の魔剣を抜こうとした。 ――その瞬間だった。
ブリュンヒルデの瞳から、光が消えた。
「主様。提案があります。あそこの不潔な個体、ショップの『開店祝いの生贄』にしてもよろしいでしょうか?」
「ダメに決まってるだろ!!」
俺は慌てて彼女の腕を掴んだ。 すると、あんなに猛々しかった戦乙女が、「あ……主様に触れられた……」と顔を真っ赤にしてフリーズした。
……これだ。 この子が暴走した時、止められるのは、修理した本人である俺の物理的な接触しかないらしい。
俺は、遠くで燃え上がる帝都の空を見上げ、深く溜息をついた。 「……とりあえず、帝国を滅ぼすのは明日まで待ってくれ。まずは、まともな店舗物件を探すのが先だ」
こうして、俺と「重すぎる戦乙女」による、絶対平和(物理)なリサイクルショップ経営が、無理やり幕を開けたのだった。




