ガラクタたちの巡礼
帝国軍を追い払ってから数日後。
ゴミ捨て場の境界線には、これまで見たこともない奇妙な列が形成されていた。
松葉杖に体重を預ける老兵。
片腕を失ったまま鎧を着込んだ騎士。
そして、ボロ布をまとった浮浪児。
彼らに共通しているのは、ただ一つ。
壊れ果てた「ガラクタ」を、まるで宝物のように抱え込んでいることだった。
「……あ。……オーナー、大変。……入り口の待機列、サーバーの許容人数を突破。……ここ、リサイクルショップじゃなくて、巡礼地になってる」
ラジエルが、呆れた調子でホログラムの集計データを弾く。
俺は、山のように積み上がった「修理依頼品」を前に、額の汗を拭った。
「……俺はただの修理屋だぞ。なんで独立記念祭みたいな行列ができてる?」
「理由は明白です、主様」
ブリュンヒルデが列を整理するため、漆黒の剣を地面へ突き立てた。
それだけで、先ほどまでざわついていた列が嘘のように静まり返る。
「世界から『死ね』と言われた者たちが、唯一、息を吹き返せる場所を見つけたのです。……彼らにとって、あなたはもはや神と同義」
「神なんて呼び方はやめろ。……次、入れ」
俺の声に促され、一人の少女が震えながら前へ出た。
彼女が差し出したのは、頭部が外れ、手足の関節が赤錆に覆われた一体の自動人形だった。
「……これ、お母さんの形見なんです。……帝国のお医者様には、魂の回路が焼き切れてるから、スクラップにするしかないって……」
少女の涙が、人形の冷たい胸板に落ちる。
俺は黙って人形を受け取った。中を覗くまでもない。回路は断裂し、蓄魔石は完全に空。世界の基準では、間違いなく「ゴミ」だ。
「……ブリュンヒルデ、ジャンクパーツ箱から銅線を一本。……アイギス、お前の魔力を一滴だけ、この蓄魔石に」
「はい、主様。お安い御用です」
俺は指先を、人形の喉元に刻まれた「命の刻印」へ添えた。
意識を集中する。形を直すんじゃない。この中に眠る、「誰かを守ろうとした記憶」を無理やり引きずり起こす。
「――【再定義】」
淡い青光が、俺の指先から人形へと流れ込む。
錆びついた歯車が、一秒間に数千回の速度で削られ、噛み合い、回転を始める。焼き切れていた回路が神経のように再接続され、アイギスの魔力を吸って脈動しだした。
カチッ。
人形の瞳に、柔らかな光が灯る。
「……オハヨウ、ゴザイマス。……お嬢様。……涙を、拭いてください」
人形だったものが、ぎこちない動きで少女の頬に触れた。
巡礼者たちの間から、溜息とも祈りともつかない声が漏れる。
「……。…………」
俺は人形を少女に返し、次を呼ぼうとして――足を止めた。
列の最後尾。
そこに立つ男は、これまでの誰よりも強烈な「不吉」を纏っていた。
全身を覆う白銀の鎧。
背中には巨大な「日輪」の紋章。
帝国の至宝。
アリオスとは比較にならない殺意を研ぎ澄ませた、真の「勇者」の一人。
「……お前も、何か直してほしいのか?」
問いかけに、白銀の騎士は無言で腰の剣を抜いた。
刃は折れてもおらず、錆びてもいない。だが、その刀身には無数の「呪い」が貼り付くように蠢いている。
「……俺の心を直せるか、修理屋」
その声は、底の見えない深淵から響いてくるようだった。
穏やかだったゴミ捨て場の日常が、再び「戦争」の影に覆われようとしていた。




