ガラクタの聖域(サンクチュアリ)
阿鼻叫喚の嵐が去った後、ゴミ捨て場には異様なほどの静寂が戻っていた。
数千に及んだ帝国軍は、もはや軍隊の体を成していない。自らの鎧に手足を絡め取られ、制御を失った銃を抱えたまま、逃げ惑うように霧の向こうへと消えていった。捨て台詞を吐く余裕すら、彼らには残されていなかった。
「……あ。……敵性反応、消失。……残存物は、大量の『高品質な廃棄物』のみ。……オーナー、また在庫が増えた。……片付ける?」
俺の影から這い出したラジエルが、散乱する戦車の残骸を指差す。俺は溜息をつき、なお熱を帯びている右手を軽く振った。掌からは、焦げたオイルと鉄が混じり合った、不快でありながらどこか懐かしい匂いが立ち昇っている。
「片付けは明日だ。……それより今は、この『客』の方が先だろ」
視線の先。
瓦礫の山に背を預け、震える手で折れた剣を抱きしめる男がいた。帝国の将校でも、神の使徒でもない。泥に塗れ、絶望に瞳を濁らせた、ただの「敗残兵」だった。
「……見た、ぞ。あんたが……あの鉄屑を、一瞬で『神の兵器』に変えるところを……」
喉に錆びた釘でも突き立てられたかのような、掠れた声。男は俺の足元まで這い寄り、抱えていた折れた剣を差し出した。刃は半分を失い、魔力回路も焼き切れている。弁解の余地すらない、正真正銘のゴミだった。
「こいつは……親父の代から、ずっと俺を守ってくれた。……帝国は、直せないから捨てろって言った。代わりに『量産品』を持てって、笑いながら……っ」
大粒の涙が、泥の上に落ちる。
背後で控えていたブリュンヒルデが、不快そうに鼻を鳴らした。彼女たちにとって、弱者の涙など意味を持たない。だが、俺は違う。
「……直せない、か」
俺は折れた剣を、ひったくるように受け取った。
掌に伝わる、冷え切った鉄の拒絶。それでも、その芯の奥から、かすかに「生きたい」と叫ぶ金属の悲鳴が聞こえてくる。
「ラジエル、作業台を。……アイギス、この男に水と、少しばかりマシな食い物を」
「主様……まさか、そのような無価値なものを、本当に直されるのですか?」
困惑した様子でアイギスが声を上げる。
「無価値かどうかを決めるのは、俺だ。……こいつは、まだ死にたくないって言ってる」
俺は、直したばかりの鉄パイプを放り出し、折れた剣を掌に据えた。
意識を研ぎ澄ます。周囲に漂う殺気も、帝国の脅威も、今はどうでもいい。ここにいるのは、絶望した男と、それ以上に絶望している鉄の塊だけ。それらを繋ぎ直す。それこそが、俺の矜持だった。
「――再起動・魂の鋳直し(ソウル・フォージ)」
掌から放たれた光が、ゴミ捨て場の夜を白く塗り潰す。
それは破壊の光ではない。この世界から「いらない」と切り捨てられたものたちが、再び呼吸を始めるための、産声のような輝きだった。
光が収まった時。
俺の手の中には、かつての鈍い輝きを宿しながらも、以前とは比べものにならないほど強靭な芯を持つ一振りの剣が戻っていた。
「……ほら、持っていけ。……今度は、お前がこいつを守ってやれ」
剣を返された男は、信じられないものを見るように刃を撫で、嗚咽を漏らす。
その光景を、俺の「家族」たちは、それぞれ異なる――だが等しく重い――眼差しで見つめていた。
この日、帝国軍を退けた「ゴミ捨て場の修理屋」の噂は、風に乗って世界中へと広がっていく。
それは、世界から見捨てられたすべての「ガラクタ」たちが、最後の希望を抱いてこの聖域を目指し始める、激動の時代の前触れだった。




