その鉄屑(ガラクタ)は、神の如く語りだす
「悪いな、レン。お前は今日限りでクビだ」
帝都の片隅、積み上げられた鉄屑の山。 夕日に照らされたその場所で、俺、レン・アイゼンは、人生の「期限」を告げられた。
「お前のスキル【魂の修復】は、結局、汚れを落とすだけの洗濯屋だ。我が騎士団が求めるのは、敵を薙ぎ払う一撃であって、ガラクタのメンテナンスじゃないんだよ」
団長が捨て台詞とともに放り投げたのは、俺が大切に手入れしていた工房の鍵。 そして、彼の足元に転がっていた、錆びついて刃毀れした一振りの――「ゴミ」だった。
「そんなに修理が好きなら、その呪いの剣と一緒に、ゴミ捨て場でお似合いの生活でも始めるんだな」
団長たちは笑いながら去っていく。 一人残された俺は、泥にまみれたその剣を拾い上げた。
――確かに、ボロボロだ。 刀身は折れ、表面にはどす黒い「呪い」の痣がこびりついている。 けれど、俺の目には、その奥で泣いている「何か」が見えた。
「……痛かったよな。ずっと、ここに放っておかれたのか」
俺はそっと、その鉄屑に触れる。 俺のスキルは、単に汚れを落とすだけじゃない。 物に宿る「魂の歪み」を正し、その全盛期を書き戻す力だ。
「――修復、開始」
瞬間。 俺の手のひらから、青白い魔力が奔流となって溢れ出した。
こびりついた呪いが、黒い霧となって霧散していく。 折れた刃が、欠けた記憶を繋ぎ合わせるように、まばゆい光を帯びて再生する。
――問おう。貴様が、私の「主」か。
脳内に、凛とした、けれどひどく冷たい声が響いた。 光の柱が天を突き、ゴミ捨て場のガラクタが爆風で吹き飛ぶ。
光の中から現れたのは、白銀の甲冑を纏った、透き通るような銀髪の少女だった。 その背後には、修復されたはずの剣が、神話の如き神々しい輝きを放ち浮遊している。
「あ……。えっと、修理は成功、かな?」
俺が呆然と呟くと、少女――戦乙女ブリュンヒルデは、俺の前に跪いた。 その瞳には、狂気にも似た深い忠誠心が宿っている。
「はい、主様。千年の呪縛を解き、この魂を『再起動』していただいたこと、感謝いたします。……さて」
彼女はゆっくりと立ち上がり、俺を追い出した連中が住む「帝国」の方角を見据えた。
「まずは、主様を侮辱したあの愚か者たちの首を撥ね、この国を更地に戻してまいりましょう。主様の新しい工房(領地)には、帝都の廃墟が相応しい」
「えっ、待って。何言ってるの?」
「ご安心を。一時間もあれば、帝国の防壁など紙屑同然に。……さあ、蹂躙の時間です」
彼女の背後に、修復された無数の「伝説の武具」が、ミサイルのように展開される。 それは、俺がたった今、良かれと思ってピカピカに直してしまった神話級の兵器たちだった。
「ちょ、ちょっと待て! 俺はただ、綺麗に直したかっただけで、戦争がしたいわけじゃないんだ! 止まってくれ、ブリュンヒルデ!」
「……主様は、お優しいのですね。ですが、一度起動した『粛清命令』は、止まりません」
可憐な戦乙女は、美しい微笑を浮かべたまま、音速を超えて帝都へと飛び去った。
――こうして。 俺の「平穏なリサイクルショップ経営」の夢は、一話目にして爆音とともに崩れ去った。
「誰か止めてくれええええええええ!」
俺は、自分が直してしまった「最強のガラクタ」を止めるため、必死に走り出した。




