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引きこもり賢者のゲームダンジョン攻略  作者: 古流 望
01章 新しい人生始めました

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08 不本意にお出かけ


 トレーズという町は、とても歴史の古い町らしい。

 深淵の森という、いかにもな名前の森から出てくる強力な魔物を水際で防ぎ、王都の盾とするために出来た前線拠点がその始まりなんだとか。

 町の北側と北東部にかけて、とても深くて広い森があるらしい。この森がもうどう考えても危険極まりない場所らしく、現状ではプレイヤーが行けないことになっているそうな。ああ、なるほど。そういう設定なのね。

 今後、何か起きそうな気もしないでもない。きっと、ある程度ゲームの攻略が進んだところで解放されるエリアなのだろう。今後の追加要素の伏線って感じがする。

 メタを読まずに素直に読めば、危険な場所の側にある防衛の為の街という話だ。


 歴史として古いだけあって、観光名所も幾つかあるらしい。

 古い建物が多く残っていて、旧城壁の跡地は過去の激戦を今に伝える歴史遺産とも呼べるもの、だそうだ。つい最近始まったばかりのゲームで歴史遺産と言われてもなんだかなあという気もするのだが、本にはそう書いてある以上、きっとそのような設定で作られたものなのだろうと推察は出来る。細かい設定を作りこんでいる以上、きっと見ごたえも有るはず。

 見てみたい気持ちは有るけど、行くのが面倒くさい。

 まだ図書館の新作コーナーも読めていないのに、お出かけする気持ちにはならないのだ。我、引きこもりの達人ぞ。


 そう思っていたのだが。


 「カレン、トレーズに行こうぜ」


 キランと輝く歯を見せ、満面の決め顔の上に、親指を立てているわが幼馴染。グッドを表現しているポーズも、私にしたらバッドだ。その立てた親指、そのまま下に向けてくれないかな。

 無性にイラっとくる決めポーズ。どや顔。何か手近に投げるもの無いかな。


 「私、パス」

 「そう言うなって」


 笑顔のまま、私の側に腰を下ろすダイちゃん。

 遠慮のなさは相変わらずか。まあ、今更遠慮する間柄でもないけれど。


 「トレーズに興味は無いのか?」

 「……ちょっとは有る」


 風光明媚な観光地というなら、見てみたい気持ちも有るっちゃ有る。

 だけど、面倒くささが勝る。まだ読みたい本が有るし、本も私に読んでもらいたくて待っているのだ。本と私は大親友同士。ずっ友だからね。これからも末永く無二の親友であり続けるのだ。絶対に離れたりはしない。

 そもそも、出かけるとか面倒くさいに決まってる。図書館で本に囲まれている方が、私は幸せなのだ。観光地は、本当に気が向いた時に行くぐらいで良い。

 二年に一回ぐらいはお出かけ気分になる日もあるんだから、その日を待っていなさいって。


 「……お前に良いことを教えてやろう」

 「何?」

 「トレーズにも本を読めるところが有るんだが……そこでしか読めない本が有るらしい」

 「本当!?」


 おっと、そういう話なら、話を聞こうじゃないかワトソン君。

 新作コーナーの本も楽しいが、新しい本の出会いとは新作だけとは限らない。

 読める本が有るというのなら、行ってみてもいい。どんな本が有るかは確認したいけど。

 本当に、良い本があるのか。どうなんだ。おらおらおら、さっさと吐け。キリキリ白状しろ。


 「マジマジ。俺、嘘つかない。ついたことも無い」

 「五年生の時に、わたしの名前だして捜索願出されそうになったの、覚えてるんだけど」

 「あれは若気の至りだな。いやあ、若かった」

 「こいつ……」


 わはははと笑う馬鹿。

 この男は、小五の時にツチノコを探すとか抜かして、同級生と一緒に放課後山の中まで遊びに行っていたのだ。夜になっても帰ってこないからと結構な騒ぎになった。

 私と遊ぶからと嘘をついていたことで、私まで一緒にいなくなったことにされて。その日に限って両親の帰りも遅かったもんだから、この馬鹿の親が警察に捜索願をだそうとしてた。私の分まで。

 こいつがひょっこり帰ってきて、私はどうしたのかって話になって、この馬鹿は『カレンは何処にいるか知らない』とかほざいたもんだから、それはもう大変な騒ぎになったのだ。

 私、関係ないのに。全く何も知らなかったのに。行方不明者になってて、大騒ぎの真ん中に居たんだよ。お陰で、私なにもしてないのに、揉みくちゃにされた。本当に、いい迷惑だった。

 あの時から、人を巻き込んで困らせるのは変わっていない。

 何かやるときに、人を引っ張っていくのがこいつの習性なのだ。よく言えばリーダー気質。悪く言えば独善気質。雀百まで踊り忘れずというが、こいつは子供の時から人を巻き込むのが得意である。が、それはそれ。嘘をついたことがあるのを、私は未だに忘れていない。


 私がじっと睨むと、ダイちゃんは笑いながら目をそらしやがった。ふっ、私の勝ちだな。何の勝負かは知らないけど。


 「いや、あれだ。冗談は置いといてだ。たまには息抜きするのも構わないだろ?」

 「別に要らないけど」

 「俺は、お前が心配なんだよ。たまには気晴らしもしないと、精神的に鬱るぞ? マジで」


 こいつが、珍しく真面目な顔で心配そうにする。

 本当に、本当に珍しく、真面目な顔だ。

 心の底から私を心配してくれているのは伝わってくる。ぐぬぬ、この卑怯者め。


 「むぅ……まあちょっとぐらいなら」


 まあ、こいつの真面目な心配に免じて、少しぐらいなら散歩に付き合ってやってもいいか。

 ああ、面倒くさい。けど、まあ、少しぐらいなら。いや、でも面倒くさい。うーん。

 私の消極姿勢もなんのその。目の前のおバカさんは、さっと動き出す。この子は行動力だけは有るんだよね、昔から。


 「よし、それじゃあ早速いこう」

 「え? 今から?」

 「そうそう。丁度、俺のパーティーに一人空きが出てさ。急に来られなくなって。で、丁度いいからお前を連れて行ってやろうと思った訳よ」


 いつの間にか、にこにこ顔になってた野郎が、さあさあと私に外出を促してくる。

 このおバカ、最初からそのつもりだったな。さっきの真面目で心配そうな態度はどうした。


 「それって、知らない人の中に私が放り込まれるって話じゃ……」

 「大丈夫大丈夫、みんないいやつだから。ほら、行くぞ」

 「あ、ちょっと」


 ダイちゃんが私を引っ張るようにして、無理やり図書館から連れ出した。お巡りさん、ここに人さらいがいますよ。

 ああ、ゲームなのに空が眩しい。



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