07 新しい本は嬉しい
日がな一日、読書三昧というある日のこと。
いきなり鐘の音が鳴り響いた。
『ゲームをプレイ中の皆様にお知らせいたします。深き森の街トレーズへの到達者が現れました。ただいまを持ちまして都市間転送システムを解禁致します』
いきなり何事かと思ったら、どうやら始まりの街ウーノの他に、別の都市へ移動したプレイヤーが現れたようだった。
このゲームでは、都市から都市への移動はとても大変。そう設定されているから。モンスターが襲ってくるし、そもそも道が途切れていることもある。らしいよ、本で見た。
しかし、鉱山都市である北の街でなく、私も知らない街だ。鉱山都市ならここの本でもちらほら名前が出てるから知ってるんだけどな。探せばさっきのアナウンスの街のことも分かるだろうか。
これは、ちょっとばかり興味が出てきた。
「すいません」
「あら、カレンさん。どうされましたか」
私が声を掛けたのはこの図書館の司書さんの中でもリーダー格の女性。名前はサラさん。明るくて優しい性格で、おっとりとした雰囲気のある大人の女性だ。
髪は短めのショートボブといった感じだが、髪色が明るめのブラウンだからとても快活な印象を与える美人さん。
背は高めで、図書館の制服もこの人が着るとお洒落に見える。美人は何着ても似合うってのは本当だと思う。羨ましいことだ。
他のゲームプレイヤーも、遠慮せずに図書館に来ればいいんだ。こんな美人さんと出会えるチャンスがあるのに。いや、来なくていいな。サラさんを取られるのは許しがたい。サラさんを口説こうというなら、私を通してもらわにゃ。うん、そこら辺の男にはこの人は勿体ない。
私もずっと図書館で本を読んでるもんだから、いつの間にか仲良くなっていたお姉さん。欲しい本もサラさんに聞けば一発で見つけて貰えるから、とてもありがたい。この図書館の蔵書についてなら、大抵のことは知ってるし、知りたいことを聞けば適当な本を紹介してくれたりするんだよ。
物凄く曖昧で適当な説明でも、しっかりと耳を傾けて最善を尽くしてくれるし、驚くほどしっかりと本を探してくれるんだ、これが。
例えば、もこもこっとした、ふわふわのやつを調べたい。みたいな子供の要望に、綿あめの作り方が載っている子供向け科学実験の本を持ってきたり。子供がお菓子のことを言っているなんて私には分からなかった。てっきり雲か何かを調べれてるのかと思ったからね。しかも、ただ綿あめについての本じゃなく、子供が実際に作ってみたがっていることを察して、作り方が詳しく載っている本を持ってくるあたり、プロだよ、プロ。
どれだけの本の知識があるのか。偉人として本に載っていてもおかしくないレベルのひとだよね。
本探しのプロであるサラさん。私も、知りたいことが有れば遠慮なく聞いてねって言われるので、遠慮せずに聞く。
「トレーズって街のこと、調べたいんだけど。良い本ありますか?」
「あら……そうねえ」
折角のタイミングだ。アナウンスが流れたタイミングなら、それについて調べるのはおかしなことでも無いはず。良い本たのんます姉御。
しばらくじっと考えていたサラさんだが、ニコっと笑って私の方を見る。
「じゃあ、ちょっとついてきてもらえるかしら」
「はい」
歩き出したサラさん。歩き方までモデルっぽいってのは、美人の証拠なんだろうか。後ろをついていく私も、ついつい目でサラさんの動きを見てしまう。なんだろうね、歩き方の基礎からして違う感じがする。普通の人ならモデル歩きでもスッスッスと足を動かすところを、シュッシュッシュっと一動作一動作の動きがキレのある動きになってる感じ。動きと動きの間がワンテンポ早いというか。
思わず見とれてしまうけど、サラさん、こっちはあまり知らない場所ですよ。大丈夫かな。
サラさんに連れていかれたのは、貸出のカウンターがあるところ。
「ちょっと待っててね」
カウンターの中の職員スペースに入っていったサラさん。何をしてるのかちょっと気になるけど、カウンターが絶妙に視線を防ぐんだよね。中を覗き込めないようになってる。職員の人たちの顔は見えるのに、胸元から下は見えない感じ。身長が三メートルぐらいあれば手元も見えるかもだけど、普通の人じゃ無理だろうね。
しばらくして、美人お姉さんが一枚の紙きれのようなものを持ってきた。
いや、大きさから言って名刺か。
サラさん、それって何ですか。私、興味あります。
「はい、これ、あげるわね」
「はあ、ありがとうございます」
渡された名刺のようなものを見てみる。というか、サイズ的にはそのまんま名刺じゃないだろうか。
『初級図書利用許可証』
なんだこれ。
「それが有れば、二階の本も借りられるようになるのよ」
「え!? 本当ですか!!」
おお、それは嬉しい。
今まで弾かれていた二階への階段が、通れるようになるのか。
うっひょう。これは心躍りますよ。阿波踊りとソーラン節に盆踊りをつけて踊っちゃうね。サービスでラジオ体操もおまけしちゃう。
「じゃあ、深き森の街トレーズについて、書いてある本はこっちよ」
「ありがとうございます!!」
「ふふ、館内ではお静かにね」
「あっ……はい」
ワクワクとドキドキを胸いっぱいに感じながら。
初めて階段を上っている。ぎいぎいと鳴る木の階段。再現度が凄いですよ。うん、名建築に違いない。素晴らしいものが置いてある場所なのだから、建築も素晴らしいに違いない。我ながらの名推理。うふふん。
この先には、新作のコーナーがあるらしいし、新しい本もいっぱいあるんだろう。有って欲しい。有るに違いない。有れ。無いと許さん。
ああ、今日はなんていい日だ。是非とも今日を国民の祝日にすべきだ。働くことへの勤労感謝の日があるんだ。読書をする人に感謝の日があっても良い。当然あるべきだ。
今日を読者感謝の日に制定します。私が今決めました。
「それじゃあ、こっちよ」
二階に上がったところは、まず休憩室のようなスペースになっていた。
ソファがあって、飲食可と書いてあるエリアがあって、掲示板のようなものもあって。
職員でない単なる利用者っぽい人が二人ほど、椅子に座って休憩しているから、誰でも使って良いのだろう。
つまり、私が使ってもいい。うん、ここは居心地良さそうだから得点評価にプラスだね。
サラさんの後ろをカルガモの雛の如くくっついて歩いて行ったら、新作コーナーの文字が有った。
これこれこれ。これよ。新しい本というのは、いつだって嬉しいものなのよ。
コーナーが少し小さそうなのが不満かな。
新作コーナーなんて、ワンフロアぶちぬき丸々でもいいぐらいだ。
いやまてよ、いっそ一館まるごと新作用にして、旧作用に三つほど別館を建てればいいんじゃないだろうか。
これは、とんでもない名案を思い付いてしまったかもしれない。
「ここが、地理と歴史のコーナーになってるのよ」
気もそぞろに、集中力欠如のまま歩いていたら、サラさんにぶつかりそうになった。危ない、衝突事故を起こすところだったよ。
いつの間にか目的地に到着していたらしい。よし、早速本を読もう。
サラさんは、棚から幾つか本を探して私に渡してくる。
「深き森の街トレーズについては、この本が詳しいわよ。あと、こっちの本とこっちの本がトレーズについて書いてあるわ。多分、それで基本的なことは分かるはずよ」
「ありがとうございます」
受け取った本には『トレーズ旅行記』『森の街』『王国歴史大全2』とタイトルが書いてあった。
やった、新しい本だよ。早速読もうじゃないか。




