21 お買い物
「これなんかどうよ」
ダイが、お店に並んだ防具の一つを指さす。
「よく分かんない」
「お前、ステ振りが初期値のまんまだからな。運以外振らないってのは、本当に徹底してる」
「今更多少振ったところで、雑魚だもん。それなら強みを活かすべきよね」
「間違っちゃいねえな。今回もそれを頼ったところが有るし」
「ね?」
どうせ私は戦いなんて無理だ。物作りも面倒くさい。採取なんてもっと根気がいる。私は運だけを極めて、ラッキーガールとして悠々自適に引きこもるの。たまにこうして特技を活かしてお金を稼いで、それで引きこもるんだ。
プロの引き籠りに、私はなる。
ぐっと握りこぶしを固めて決意を決めた。
「取りあえず、ステ初期値でも身に着けられる……防具最優先だな」
「ほむ」
おい、無視しやがったな。
しかもダイは、なんだかわからないけど自分で勝手に納得してる。防具とか武器とか聞かれても分からないから、全面的にお任せするよ。どうせ奢りだし。人の奢りにはケチつけないから、良いの頼むね。出来たらデザインは可愛いのか綺麗系で。あと、長く使えるものが良いかな。それと着け心地も大事だからね。
特に注文は付けないけどね。うん。
「鎧系は軒並み力が足りない。金属系の防具は全滅だな。となると布系で……服装備か。あと、マントかクロークか……上から羽織る系統の防具が良い。それと、帽子もなんとかいけそうだな」
「どれが良いのか、さっぱり分からないわ」
「だろうな。こういうのは俺の言う通りにしとけ。間違いのないものを選んでやっから」
「うぃ」
自分の分からないことは、専門家に頼る。これも大事なことだ。
ダイ、よきにはからえ。苦しゅうないぞよ。
「あら、カレンちゃんじゃない」
「あらぁ、ほんとう」
買い物してると、いきなり声を掛けられた。
相手は見知った人だった。というより、私の数少ないフレンドである。
「リカさん。それに、もにか姉さん」
侍風衣装に身を包んだリカさんと、ゆるふわ系のもにかさん。一瞥以来だ。
「奇遇だねえ。カレンちゃんもイベントに備えて装備更新?」
「ま、そんなとこです」
イベントなんて参加するつもりも無かったんだけど。新しい本が私を待っていてくれるんです。本の為ならえんやこら。苦労もなんのその。引きこもりの為に苦労するのは苦労じゃないのですよ。
「ワーホリさんはどうしたんですか?」
仲良し三人組なのに、二人だけってのはどうしたのか。喧嘩したって訳でもなさそうだけど、三人一組で動きそうな気がしてたから二人だけで行動ってのはちょっと違和感あるわ。
「彼女はじゃんけんで負けて、消耗品の買い出し」
「それは可哀そうに」
なるほど。ポーションとか食料品とかだね。確かに、買うものが決まって選ぶ楽しみは無いから、本当に仕事というか作業になる買い出し。じゃんけんで負けて、単独行動させられた訳か。
ワーホリさんも災難だね。
「カレンちゃんは……格好いい人と一緒に居るのね」
リカさんはともかく、もにか姉さんは露骨にからかいの目を向けてくる。
そいつ、彼氏だろ、みたいな目線。
もうね、この馬鹿と一緒に居ると良くあるんだよね、こういうの。
格好いいだって。ははは、ジョークがお上手で。
「あ、折角なんでお二人に紹介しておきます。私の幼馴染です」
「どうも。カレンの保護者やってるダイナソーと言います」
「おいこら、誰が保護者だ。むしろ私の方が保護者だろ」
「はははは」
笑って済ますな。私の方がお姉さんだろう。どう見ても。みろ、このあふれ出るアダルティな色気。
あ、この馬鹿、鼻で笑いやがったな。
「ダイナソーって……あの?」
「嘘~、本物ぉ?」
しかし、なんだかお二人さんの反応がおかしい。
あれ、何、こいつのこと知ってるの。
「一応、βからやってるんで、想像しているので合ってると思います。どうぞよろしく」
「こここ、此方こそ。あの、握手してもらって良いですか!!」
「俺なんかで良ければ」
おおう、リカさんの態度がおかしくなった。
まるで有名人に会ったファンみたいな行動。
誰かと間違ってるんじゃないか。こいつはただの馬鹿ですよ。おおい、聞いてますかぁ。
もにか姉さんもダイに握手してもらって喜んでる。
あれぇ、おかしい。こいつはそんな有名人じゃないと思うけれど。
「それじゃあ、ダイナソー師匠もイベントには参加されるんですね」
「ええ。俺も入賞狙ってます」
「ですよね。あの、その、応援してます!!」
「ありがと。ああ、申し訳ないけど今はカレンの装備を整えてるとこなんだ。これぐらいにしておいてもらえるかな」
「ももも勿論です師匠!!」
おお、いつの間にかダイちゃんが師匠になっとる。
何故に。どういう経緯でそうなったかさっぱりだが、リカさんは変人だったんだな。
私みたいな常識人には、少しばかり理解の及ばないところが有るよ。
「じゃあね、カレンちゃん!!」
「また今度一緒に遊ぼうねぇ」
「はい、また今度」
バイバイ、と手を振りながら離れていく美女二人。
あの二人、あまり共通点がないなと思ってたけど、変人繋がりだったんだな。
類は友を呼ぶって奴だろう。なるほどね。
「カレン、お前にも友達出来たんだな」
「まあね。いい人たちだよ」
「そっかそっか。俺は嬉しいぞ。うん」
おい、その生暖かい目つき、やめろ。殴るよ。
私だって、友達ぐらい居るわ。何ならいっぱいいるからね。
学校の友達でも、三人ぐらいはすぐに言えるんだから。えっと、多分。
「まあ、色々あったけど取りあえず防具はこんなもんか」
「結構するね」
値段見て、びっくりした。防具って上は天井知らずなんだって。ン百万ぐらいするのが普通に店売りしてる。ひゃあ、こんなの誰が買うんだろう。セレブ用じゃん。
「布装備って言っても、良いやつを選んだからな。気にせず使えよ」
「うん、分かった」
早速今日から使わせてもらうよ。
「そこで遠慮を欠片も見せないのがお前らしいよ」
「今更遠慮とか。ダイちゃん相手に? ははは」
「なんで笑ってんだよ」
この馬鹿相手に遠慮とか。ナイスジョーク。
お互い様だからな。私だって、こいつに何かあげて、もじもじ遠慮してたら驚くよ。悪いものでも食べたのかと心配してしまうね。
お互いに遠慮のない関係を幼馴染というのだ。覚えておきたまえ。ふふふ。
「次は武器だけど……どうせ初期値だし、戦うことも無い訳だから……本を装備してみるか?」
「え? 何それ!! 詳しく教えて!!」
本を身に着けるとか。凄い心惹かれるんですけど。
「魔法使い系のスキルや、聖職者系のスキルには、当然魔法のスキルが多いだろ」
「うん」
そりゃそうだろ。魔法を使うから魔法使いな訳で、物理で殴る魔法使いなんて魔法使いとは言わないでしょ。
「魔法系のスキルを強化する武器は、大きく三つ。杖、護符、本だな」
「護符ってのも武器なの?」
「タリスマン系統なんかがそうだな。お守り系ってやつ。巫女さんビルドなら、護符がメイン武器になるぜ」
「ふうん」
そんなのも有るんだ。
言われてみれば、お札で戦う巫女さんとか、ロマン有るかも。なんだっけ、救急如律令だっけ。急々如律令だった気もするけど、陰陽師ってそんな感じだよね。
よく知らないけど。巫女さんなら似たようなもんでしょう。
「杖は主に攻撃系の魔法使いが使う。魔法の威力が強化されるものが多いからな。勿論、回復系統の魔法を使う人間も装備する。回復魔法が強化されるからな」
「ふむふむ」
もにか姉さんあたりが使ってたのがそれだろう。
光魔法とか、いかにも杖を使いそう。スキルのレベルが上がったら、多分レーザービームとか撃ちだすはず。
そうなったら見せてもらおうかな。
「で、本系統は単純に知力をあげるタイプが多いな。基本的に後衛が使う武器ではあるが、たまに前衛で使ってる奴もいる。魔法の攻撃力を直接上げるんじゃなく、ステータスを向上させて間接的に威力をあげる武器ってのがポイントだな」
「何が違うの?」
「魔法威力を直接上げるタイプの武器なら、攻撃だけに補正が掛かる。対し知力を上げると、MPが増えたりする」
「なるほど」
なら、本の方がよくないか。
「そうでもない。ダメージ量だけを単純に考えれば、魔法威力を上げた方が良いからな。上昇幅も杖の方が大きい。あと、杖は物理攻撃力も持ってるやつがあるから、近接戦闘で防御に使えたりもする。杖術系のスキルが有るなら魔法も物理も両方上がって二度美味しい」
「ふうん」
色々あるんだね。
「どの武器にしても一長一短あるから、自分のプレイスタイルとステータス、後はスキルや仲間同士の兼ね合いを考えて使い分ける訳だが……カレンの場合は尖り過ぎてるから、実質一択になるな」
「それが本?」
「ああ。装備制限の緩いことが多いのも本タイプの武器の特徴だし。まあ高ランクの武器になってくると本武器でもえげつないステの装備制限あったりするけど」
「よく分からないけど、おススメなのはおススメなのね」
本をお勧めするとか。ダイも中々分かってると思う。
「ああ。知力をあげて、後はアクセサリあたりで最下級でも良いから回復系統の魔法を使えるようにしてれば、まあヒーラーポジションに据え置けるだろ。HP回復の魔法なら最適だが、アクセサリで使える奴は高いから……最悪毒の回復だけでもしてくれりゃいいか。俺が選んでもいいよな」
「じゃあ、任せる」
「おう」
結局、ン十万のお高い金額で装備が整った。こんな金額、ダイに支払えるのかな。
「お金、大丈夫?」
「任せろ。これぐらいは男の甲斐性って奴だぜ」
何でもないように、ダイがお支払いしてくれた。
うん、今のは少し格好いい感じだった。ドヤってる決め顔が不細工に見えるのは減点だけど。