15 ダンジョン攻略はじめました
『クエリ草求む。100枚1単位で5単位まで買い取り。1単位2400マニ』
『ハンターゴブリンの変異種討伐。成功報酬6000マニ&【剛力の腕輪+2】』
『盗賊王の隠された財宝の手がかり求む。有効な手がかりに報酬。1200マニ~8000000マニ』
うぅむ、依頼の良し悪しがさっぱり分からない。
報酬がお金になっているのはまあ何となく分かるにしても、報酬にアイテムがあるやつとか、意味が分からん。アイテムの良し悪しも分からないから、報酬が良いのか悪いのかが分からないよね。
大前提として、報酬が妥当かどうかも分からないし、そもそも依頼の難易度も分からない。貢献値がどうとかいう以前の問題です。
これはもう、お手上げですわ。
「ねえあなた」
「え?」
いきなり後ろから声を掛けられた。
「さっきから依頼を眺めて唸ってたけど、どうしたの?」
声を掛けてきたのは、背の高いお姉さんだった。
腰まである髪をポニーテールにして、和服のような衣装に袴を佩いて、おまけに腰には日本刀のようなものを差してる。
おおう、見るからにサムライガールじゃないですか。
「いえ、依頼を受けたいなあと思って見てたんですけど、依頼をどうやって選べばいいか分からなくて」
「あら……あなた、初心者さんなのね」
「はい」
初心者なのかと聞かれたら、私は胸を張って答える。
私以上の初心者なんていないと。
ゲームに関して言えば、私はド素人だ。どこに出しても恥ずかしくない初心者でござる。おっと。ついお姉さんの雰囲気に引っ張られてしまった。
「じゃあ、私たちと一緒に依頼を受けない?」
「……私たち?」
「そ。パーティー組んでるのよ。私以外にあと二人。ちょっとついてきて」
私は、お姉さんに言われてほいほいついていく。
現実世界だったら不用心すぎると色々怒られそうな行動だが、ゲームなら何かあっても最悪でリスポーン。噴水での復活とデスペナルティで済む。
それに、私の優れた人物眼が、このお姉さんをいい人と判定しているのだ。我が右目に見通せぬものなどない。
幼馴染からはポンコツと言われることもあるけどね。あれはあいつに見る目が無いだけだ。
「リカ。その子どこから攫って来たの?」
「失礼ね。初心者丸出しで困ってたから、声かけただけよ」
「ははは、リカちゃんが女の子ナンパしてるぅ」
連れていかれたのは、ギルド併設の酒場、のようなところ。バーって言うんだっけ。
みんなが座って適当なグループでお酒飲むスペース。何というか、アウトローのたまり場っぽい雰囲気が、ほのかに香る感じ。
「さて、取りあえず自己紹介しとくね。私はリカ1998。リカって呼んでね」
「あーしはワーカー★ホリック。ワーホリさんと呼んで」
「あたしわぁ、さんたもにか。もにかお姉さんって呼んでねぇ」
リカさん、多分生年月日が1998年生まれとかなんだろうなぁ。逆算したら……おっと、いけないいけない。
ワーホリさんは、ブラウンのショートヘアに明るめのメッシュが入ってる。何となく姉御って感じの雰囲気がする人だ。
もにかさんは、語尾が間延びしてる通り、おっとりしてる雰囲気だ。髪色なんて、ピンクだよ。ふわっふわのもっこもこな髪型でピンク色とか。攻めてるなあ。
けど、こういう人が意外と腹黒かったりするよね。と、失礼なことを考えたりもする。
「私は、カレンと言います。初心者ですが、よろしくお願いします」
「うふふ、そんなに緊張しなくても大丈夫よ。受けたクエストが、人手の要りそうなクエストでね。丁度あと一人ぐらい欲しかったのよ」
「そうなんですね。お役に立てるよう頑張ります」
緊張、してるのかな。してる気もする。
あまり人付き合いは得意じゃないし、人見知りもする方だから。
しかし、初心者でも人手として役に立つ依頼って、何だろうか。
「依頼内容は『夢見草の変異種』を五株集めること。探し物だから、人手は多いに越したことは無いわよね」
「なるほど」
確かに、その通りだ。多分薬草なんだろうけど、探し物なら私も手伝えるだろう。
手伝えるか? 多分大丈夫なはず。
「報酬は……山分けが良いかしら」
「おいおい。そのお嬢ちゃんが役立つかもまだ分からないんだ。報酬減らされるのは嫌だぞ、あーしは」
「それじゃあ、基本山分けってのは置いておいて、出来高ってことにしましょうか。五株だから、最低一株はノルマ。二株以上は山分けに上乗せってことでどう?」
「それなら、まあ良いか」
「あたしもぉ、それでいいと思うわぁ」
「私も異存はないです」
リカさんの提案に、私は頷く。
私の目的は貢献値なので、ぶっちゃけお金とかはどうでもいい。まあ、EPが回復出来る程度に食事代が稼げれば、それ以上は使い道が思い浮かばないし。
「じゃあ決まり。早速いきましょうか」
「え? あ、はい」
準備とか、要らないのかな。
「何か用意するものとか、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。カレンちゃんがいなくても、このまま行くつもりだったから。元々準備は万端なの」
なるほど。私は本当にオマケの人手ってことか。本当に、初心者を助けるって親切心なんだろうな。リカさん、面倒見が良さそうな感じだし。他の二人も、人助けも当たり前に受け入れてるというか、慣れてる感じがするし。
「ちなみに、どこへ探しに行くんですか?」
私の問いかけに、リカさんがにっこり笑う。
「ダンジョンよ」
さいですかぁ。
私は、流されるままに初めてのダンジョンに向かう。