12 目の前が真っ暗になった
図書館は、素晴らしい。
何が良いって、本が読み放題のところ。
世の中これほど素晴らしい所は無いと思う。何なら住めるよ。
「ふむふむ」
私が読んでいるのは、英雄ローグの伝承。
最初の街では周辺都市の地理の紹介の一環でさらりとしか触れられていなかった彼も、この町ではもう生まれた時から死ぬまでのことを事細かに記録してある。
武勇伝も数多くあるが、私が面白いと思ったのはローグの日記との比較だ。
本人の目から見たことと、町の人からみたことの違いが、意外と面白い。
例えば、ローグ最初の冒険。
彼は、若いころから類まれな戦闘の才能を持ち、プレイヤーで言うところのスキルを数多く持っていたようだ。先天的に。
私たちプレイヤーと同じように、開始時点からスキルを持ってたようなものなのだろう。この世界の住人。NPCは、どうやら生まれつきスキルを持っていたりするのは稀らしい。後天的に身につくことも少ないというのが伺える。
スキルは、とても凄い。
持っているのといないのとでは、雲泥の差がある。
例えば『居合斬り』というスキルが有るとする。居合切りの技能自体は、別にスキルが無くとも身に着けることは可能だ。プレイヤーでも、持ち前の修練で身に着けた人がいるかもしれない。目にもとまらぬ高速の抜刀術で、抜くと同時に斬る。ロマンの塊のような技術だ。
しかし『居合斬り』は、この居合切りの技術を修練することなく完璧に身に着けられる上に、普通に切るよりもはるかに高いダメージが与えられるものだそうな。
どれほど修練して血の滲むような想いをしても、『居合斬り』の攻撃は、スキルが無ければ行えない。スキルの無い攻撃は、居合の技術であっても『居合斬り』スキルではないということだね。単なる居合なら防げばノーダメージ。スキルだと、単に防いでもダメージが多少通る。違いは明らか。スキルの方がゲーム内では上等ってことだよ。
まあ、現実で修練したものがスキルポイント無しで使えるとなると、現実で修練できない魔法はどうなるんだって話になるし、魔法使いプレイだけ不利になりかねない。公平性の為にも仕方ない仕様なのだろう。
つまりは、スキルは凄いってこと。
斯様に特別なものを生まれ持っていたローグは、最初の冒険で巨大な大蛇と戦った。
熟練の戦士でも敵わないような相手に対して、三日三晩戦い抜いて、剣をふるい、仲間を庇い、ついにはこれを討伐せしめた。
というのが、英雄ローグの最初の冒険譚だ。
少なくとも、残された伝承ではそうなっている。
しかし、ローグの日記では最初の敵はウサギだったと書かれている。
キラーラビットと思われる敵を友人と一緒に倒して、楽勝だったぜ俺最強、とイキりまくってる内容が日記に書いてあった。
蛇と戦ったのは、かなり冒険に慣れてきたころらしい。敵も楽勝だし、俺たち森に行ってみようぜという、若者の無鉄砲さで森に行き、文字通り藪から蛇を出してしまって、戦うことになったそうだ。要するにアホだね。
しかも、いきなり襲われてローグの友人が負傷。何ともおまぬけさんな話だ。
仲間が突然襲われても見捨てなかったのは立派だが、森の中の足場の悪いところで、見通しも悪い中、地の利を得て縦横無尽に襲ってくる相手に苦戦したとのこと。で、相手が蛇だったから、振り回した松明で偶然にも周りの草木が燃え、自分たちを蛇が見失ったところに我武者羅に振り回した剣がラッキーヒットして倒したんだとさ。
もうね、準備不足で盲目的に突っ込んでピンチになって、それが英雄譚にされるまでに膨れるとか。何とも、脳筋おバカが自慢げに武勇伝語ったのが尾鰭と背鰭がついて広まった感じがありありと浮かぶ。
これだけ見てたら、ローグと、私の知り合いの四馬鹿が被って仕方がない。あいつらも、もしかしたら後世で英雄とか呼ばれるんじゃないだろうか。英雄ダイナソーの冒険譚とか。読んだら爆笑必至だな。是非読んでみたいわ。
私は大丈夫だろうな。どこにでもいる普通の美少女だし、引きこもって本読んでるだけだから。攻略とか英雄譚とか、一番縁遠い人種だよ。うん、大丈夫大丈夫。
「さて、次はっと」
ローグの伝承の比較は意外と面白かった。
こういう、知的好奇心を刺激するものは私の大好物だよ。秘密を解き明かすみたいで楽しかった。うん、満足満足。
次の本も、面白い本だと嬉しいけど。と、次の本を手に取ろうとした時だった。
「あれ? なにこれ」
いきなり、身体が動かなくなる。
ちょっと、何なのよ。どうしたっていうの。
せめて目の前の本を読ませてよ。
私は目の前が真っ暗になった。