94【陽】彩乃の前で語られる“俺の秘密”
「俺は自己防衛的な理由から、『世界最強の元一般人』および作者『ITIRiN』に関する情報が、なるべく自分の目や耳に入ってこないようにしてるんだ。だから――絶対とは言わないけど、できるだけ俺の前でその話題は出さないでくれると助かる。まあ彩乃はあんまり興味なさそうだから、そこまで気にしなくてもいいと思うけど、一応な」
「う、うん……。ひーくんがそこまで言うなら」
「ありがとな。――で、本題はここからなんだけど……まあ、その作者ITIRiNって俺なんだわ」
「………え?」
「だから、この本を書いてるのは俺。で、授業中に執筆してたら、たまたま校長に画面を覗かれてバレて、そのまま脅され……っていうか取り込まれて、今の関係に至る感じ」
(入学して数ヶ月しか経ってない時だったからさ。あの時は『退学になったらどうしよう』って本気で焦ったの、今でも覚えてるわ)
「失礼な。私はただ、この部屋に呼び出してサインをお願いしただけだろうに」
「その前に『学校に内緒にしてる作家活動を黙っててほしければ』って一言がついてただろ。……まあいいや。大体の流れは分かったか?」
「………………」
(あ、固まったな。まあ突然『実は小説家でした』なんて言われればそうもなるか。正直、売れ行きや人気がどうとか関係なく、小説を書いてれば小説家、漫画を描いてれば漫画家って名乗れるもんだからな。でも俺は、必要最低限の人以外には明かさないし、極力情報もシャットアウトしてる)
「その様子だと、佐々木君はある程度この小説について知っているようだね」
「だ、だってこの小説って―――」
「おっと、これ以上は駄目だよ佐々木君。そして私はここで一つ、忠告をしておこう」
校長は雰囲気をガラリと変え、重く低い声で言った。
「イチはまだ高校生。心身ともに未熟な状態でありながら、一人の小説家として現代社会で戦っている。それがどれほど大変なことか。なぜ彼が、我々にこの件について触れないようお願いしているのか――一度しっかり考えるんだ。今後彼と付き合っていくのなら、なおさらね」
「………はい」




