92【彩】その頃、彩乃は
本当は告白の流れで一緒に渡すはずだったのに、色々あって順番がぐちゃぐちゃになっちゃった。けれど、なんとかチョコレートを渡せてひと安心――と思ったのも束の間。
ひーくんが自分のリュックから小さめの紙袋を取り出してきて、
「いらないってわけじゃないんだけど、彩乃から貰ったやつがあるからこれ、あげるわ」
(……え? “私から貰ったやつがあるから”ってどういうこと? たぶんチョコだとは思うけど……義理にしても高校生に渡すには不釣り合いすぎるんだけど⁉)
「………これ、袋からして絶対高いやつじゃん。……誰にもらったの?」
「誰って、仕事関係の人。……まあ全部話しておいたほうがいいか。ここじゃアレだから、校長室に行こうぜ」
そう言うなり、ひーくんは私の手を握って――しかも歩幅を合わせながら――そのまま校長室へと走り出した。
(この前は私が手を繋いで引っ張ったけど、今日は逆……じゃなくて‼ 心臓がうるさいんですけど⁉)
「えっ……。学校にも内緒にしてることを、そんな簡単に教えちゃっていいの?」
「別に俺の秘密を彩乃が誰かに話したところで、せいぜい俺が退学になって、個人情報が世界中にばら撒かれるくらいだ。……まあその時は彩乃のも一緒に拡散されることになるけどな」
「全然よくないんですけど⁉」
「はははっ。だったら内緒にしといてくれ」
本当はすごく大事なことを話そうとしてるはずなのに――まるで子供みたいに無邪気な顔で。幼稚園児が“ゆびきり”でもするかのような軽さでそう言うものだから、胸の奥がさらに熱くなる。
そして私たちは、校長室へと足を踏み入れた――。




