73【彩】その頃、彩乃は
今年最後の帰りのホームルームが終わった。
数秒前に先生から「憶測で話すな」と注意があったにもかかわらず、教室はどこもかしこもA男の話題で持ちきり。
そんな中、私は――ひーくんが部活のことで明日香と話している隙に、貴重品だけを持って再び校長室へと向かっていた。
そしてそのままソファーの裏に隠れると、すぐに彼が入ってきた。
次の瞬間、さっきまでの静かな怒りとは違う、まるでヤカラみたいな迫力で怒鳴り始め――思わず声を漏らしそうになる。
『ここで自分のスマホを出したということは、大方私との会話は全て録音済みであり、それをばら撒かれたくなかったら大人しくイチの要求を飲め……といったところかな?』
(ちょっ、ヤカラかと思ったら今度は頭脳派⁉ 校長に情報を流した件もそうだけど、一体どうやったらそんなにポンポンとアイディアが出てくるのさ。小説家とか漫画家じゃあるまいし、普段どんなこと考えて生活してるの!? 私、気になってしょうがないんだけど!)
『しかし、そんなことをすれば今度はイチが“学内で虐めの標的”になるんじゃないかい?』
(A男のために、ひーくんが犠牲になるとか堪ったもんじゃないんですけど! 校長なら無理やりにでも止めなさいよ!)
この時点では――「まだ大丈夫」。
そう思っていた。
けれど、次に彼が発した言葉。
その声色から「これは本気だ」と感じた瞬間――頭で考えるよりも先に体が動いていた。
気がつけば、私は彼のスマホを胸の前で抱きしめていて。
そして、頭が追いつく前に……勝手に口が動いていた。
「そんなこと絶対に私がさせないから‼」
「はあ………どういうこと?」
(どっ、どうしよう……! 最悪の事態は免れたけど、この微妙すぎる空気をどうしたらいいの!? 私には無理なんですけど!?)
そう思ったのも束の間。
いきなり校長が笑い出し、ひーくんが舌打ちをする。
私を完全に置いてけぼりにしたまま――。
「さぁ、そろそろネタばらしといこうか」
(もーう、なんなのこの二人! なんで一生徒と校長は意思疎通できて、私にはできないのさ!)




