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58【彩】その頃、彩乃は
向井による悪ふざけの件で少し驚きはしたものの、私達が注文した品を待っている間の小倉ちゃんは去年と同じ――いや、それ以上に可愛らしい笑顔で接客をこなしていた。
さっきの光景なんて、ただの見間違いだったのかも……そう思い始めていた、その時。
「お待たせしました、こちらストロベリーになります♪」
「あっ、それ私です」
(やっぱり……普通に可愛い。声も柔らかいし、どう考えても“ただの女の子”にしか見えない)
「こちらがアップルキャラメルになります♪」
「ありがとうございます」
(……なのに、なんでだろ。ほんの少しだけ、胸の奥にひっかかる)
「それではごゆっくりどうぞ~♪」
完璧な笑顔で一礼して去っていく小倉ちゃんを、つい目で追ってしまう。
「途中から朝日さんの顔をジッと見つめてたけど、どうかしたの?」
「ううん、なんでもない。それより温かいうちに食べよ」
軽く誤魔化しながら笑ったけれど、ほんの小さな違和感だけは胸の奥に残ったままだった。




