25【陽】体育 (下) 陰キャ、逃げ損ねてダブルス戦に突入
「よくやった一之瀬! 俺はお前が勝つと信じてたぞ!」
「……んじゃ、戻る」
誉のジュースがかかってる以上、負けるわけにはいかなかった。
だから途中からガチでやったけど――
相手が男子ならともかく、“話したこともない女子”相手に本気とか……どう考えても拙い。
(マジで気まずい。よし、撤収だ)
そう思って背を向けた瞬間。
「待って待って待って! もう一回、もう一回やろ?」
「いや、俺ラケット持ってないし……倉科とやった方がいいだろ」
「なら私は明日香とペア組むから、一之瀬君は交互に返してくれればいいよ」
「はあ⁉ おいちょっと待て! なんで俺、ラケットだけ奪われてポイなんだ!? しかもそのラケット持ってきたの俺だし! 百歩譲っても、せめて返せよ!」
「今さら他のコート行ってもみんなペアを組んでて空いてないし。持ってるだけ無駄だから別にいいじゃん」
(……こいつ、強い)
「あの~、単純に……よーくんが石原君と組めば解決じゃないかな?」
倉科の冷静な一言で、試合はそのままダブルス戦に突入することに。
結局、俺は今日初めて話した女子と引き続きコートに立つ羽目になった。
……まあ“立つ”って言っても、ほとんど誉が打ち返すから俺の出番なんてほぼないんだけど。
たまに佐々木が本気でこっちに打ち込んでくるときだけ、
(……これは“暇してる明日香にも打たせろ”って合図だな)
と勝手に解釈して、軽く返して明日香にパス。
そのおかげで気まずい空気にならずに済んだ。
(……にしても、なんで俺だけこんな扱いなんだ?)




