251【陽】誰の為に走るのか、という話
あれから藤村に手伝ってもらいながらウォーミングアップをすること約10分。
アップ自体はどれも軽いメニューを行っていたものの、少し時間を掛けたため体は良い感じに温まった。
その証拠に今の俺はアームカバーとレッグカバーを外し、半袖半ズボンの状態である。
「おっけ、あと行く」
「一ノ瀬君以外の人達は全員とっくにスタートしてるっていうのに、なに呑気な感じで『おっけ、あと行く』とか言っちゃってんの⁉ 彩乃は彩乃で、いつまでも不貞腐れてないで何とか言いなさいよ‼」
藤村の言う通り、俺以外の奴らは全員、例年通りほぼ一斉に再スタートをしている。
ちなみに時間としては約5分前といったところであろうか。
そして当たり前のことながら、その時間差はまだ中間地点をスタートしていない今も、尚広がり続けている。
とはいえ俺には最強のなんちゃってペースメーカーこと明日香が付いているので、なんの問題も……ないことはないが、俺がこの競技で1位を逃すことがないのも事実。
「ということで今から他の奴らに圧倒的差をつけたうえで1位になりたいんだけど、どうすればいい?」
『事情はあらかじめ彩乃ちゃんから聞いてるから、よーくんの狙いや心情を含め全部知ってる。途中からそっちのイヤホンの電源が入ったことで、休憩からアップまで一通り済んでることも知ってる』
「流石は明日香。んで、いったい何が気に食わないんだ? どうせその不満が解消されない限り、協力してくれないんだろ?」
昔からそうだったからな、こいつは。
『別に不満なんてありません。ただ、お姉ちゃんとの約束の為じゃなく、彩乃ちゃんや美咲ちゃんの為に1位を取ろうとしてることが、ちょっと気になってるだけです』
「はあ? 俺とお前の約束は、いつ何時、どんな内容であっても絶対なんだから、お互いそれを守るのは当然。つまり頑張るも何もねえだろ。なに言ってんだ今さら?」
『………………』
「おい、なに黙ってんだよ。まさか『よーくんは私の為にだけに頑張ってくれなきゃダメなの! 他の人の為に頑張っちゃダメなの!』とか、ヤンデレ幼馴染みたいなことを言い出すんじゃないだろうな?」
『私はよーくんの幼馴染じゃなくて、お姉ちゃんです! そこのところ、間違えないでくれるかな?』
「いや反応するところそっち⁉ あと、お前が俺の姉を名乗るのは今に始まったことじゃないからもう何も言わねえけど、幼馴染ってのも間違ってねえだろうが」




