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隣の席の美少女だけ、俺の“無自覚最強”を知っている  作者: ITIRiN
交錯する想い、後半5㎞

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249【陽】はちみつレモンは、全部飲む前提で

ちょいちょい。


(ん? 今誰かにジャージの後ろ裾を引っ張られたか?)


そんな疑問を抱くくらい僅かな違和感だったものの、考えるよりも先に後ろを振り向いてた俺の目に入ってきたのは、


右手の親指と人差し指の二本で弱々しくジャージの後ろ裾を摘まみつつ、身長差のせいで若干上目遣いっぽくなっている藤村の姿だった。


「………………」


「ぁ……、あの、さぁ。良かったらこれ、食べない?」


新学期初日の一件以降、藤村が俺のことを避けていることは気付いていたし、直接彩乃に確認したこともある。


しかし今こいつの元気がない理由は、別にあることも知っている。


かといって再びあれを使う気にもなれず、素の状態で


「ん」


とだけ返事をしつつ、可愛らしいデザートケースと子供用のフォークを受け取った。


そのまま俺は黙ってデザートケースの蓋を開け、中に入っていたレモンのはちみつ漬けを自分の口へと運んだ。


その間、誰かが何かを言うわけでもなく、よく分からない空気が流れ続けていた。


「そのはちみつレモンは今日の朝、彩乃に教えてもらいながら私が作ったんだけど……どうかな? 美味しい?」


しかしそれも、俺が三口目を飲み込んだタイミングで藤村が喋り出したことによって打ち切られた。


「ん」


「そっか、よかった~。私あんまり料理とかしたことなかったから、ちょっと不安だったんだよね」


(少し甘すぎる気もするけど、彩乃が教えたってことは何か狙いがあってワザとそうしたか、それとも単純に疲れてて味覚が馬鹿になってるだけなんだろうな)


なんてことを考えているうちに全部食べ終わった俺は、最後に残ったはちみつを喉へと流し込ん―――


「んっ⁉ げほっ、ゴホゴホ!」


(このはちみつ、めっちゃ甘‼)


「ちょっ、えっ⁉ だっ、大丈夫一ノ瀬君?」


急に俺がむせたせいだろう。反射的に体が動いたらしい藤村は、そう言いながら優しく背中をさすってくれて、どこか心配そうな声で続けた。


「やっ、やっぱり美味しくなかった……とか?」


「ちがっ、ゲホ、ただはちみつが、ゴホゴホ、少し器官に入った、だけ」


(おい、これって本当に一から彩乃に教えてもらいながら作ったんだよな?

 明らかにはちみつだけの甘さじゃねえぞ、これ)


そう心の中で疑問を抱きながら横目で彩乃の顔を見ると、


――あ~、やっぱりね。


みたいな表情を浮かべていた。


(やっぱりね。じゃねえぞゴラッ!

 最初から分かってたなら、いくらでもやりようはあっただろうが‼)


いくら他人の為に作ったものとはいえ、それを食べたのは俺である以上、本人の近くで味の文句など絶対に言うわけにはいかない。


しかし面倒を見ていたはずの奴には一言文句を言いたいわけで、目だけでそう訴えかけたものの――


「相手が誰であろうと、私が教える以上いい加減なことは絶対にやらないし、やるからには常に本気。ということでそのレモンのはちみつ漬けは、レモンの枚数からはちみつの量までの全てを食べること前提でレシピを考えてるから、安心して残りのはちみつも飲んでいいからね」


「………はい」

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