248【陽】俺専用ドリンクと、イチャイチャ地獄での待ち時間
彩乃が水分補給用に用意してくれた紅茶風味のスポーツドリンク? を受け取った俺は、それをストローでゆっくりと飲みながら、藤村のせいで乱された心を落ち着けていると――
「はい、ストップ。それ以上はもう飲んじゃ駄目です」
彩乃がそう言うのと同時に、人の手から水筒を強制没収してきた。
「ちなみに他の飲み物は?」
「いつも言ってるけれど、運動中に水分の過剰摂取は禁物&このドリンクは材料から一回に飲む量までの全てが完璧に計算し尽されているひーくん専用の物なんだから、そんなものはありません。分かったら少し大人しく休んでなさい」
ここで普段の俺なら『なにそれっぽいこと言ってるんだよ』と反論するところなのだが、一回彩乃の目を盗んで結構な量を一気飲みしたら、吐き気はするわ頭は痛くなるわで散々な目にあったことがある。だからここは大人しく言うことを聞いておこう。
「俺専用って言うだけあって、それを飲んだ後は必ず普段以上のスポーツパフォーマンス? が出せる気がする。というか確実に出てると思うんだけど、マジであのドリンクって何入ってんの?」
「最愛の彼女に向かって何なのかな、その人を疑うような失礼な目は?」
「別にお前のことを疑ってるわけじゃないけどさぁ。材料はおろか、家のキッチンで作ってるところすら見せてくれないじゃん。しかも本当たまにしか飲ませてくれないし」
「材料やレシピを内緒にしてるのは、ひーくんがそれを真似して勝手に自分で作らないようにするため。あと、たまにしか作ってあげない理由は単純に飲み過ぎると体に悪いから」
そんな言葉に続けて彩乃は、
『言っておくけど短期間の間に飲み過ぎれば体に悪いってだけであって、別に体に悪いものを入れてるわけじゃないんだから勘違いしないでよね』
と軽く釘を刺してきた。
「………………」
「………………」
「………………」
――明日香から聞いた事前情報によれば、例年の中間地点での平均滞在時間は15分前後とのこと。
そして俺以外の走者がこの場所に来てから、実はまだ5分ほどしか経っていない。
つまり俺は、他人のイチャイチャ×6組分を少なくともあと10分は眺めていなければいけないわけだが。
「彩乃、スマホ返して」
「今私がひーくんにスマホを返した後、いったい何をするつもりなのかを説明して。それで私のことを納得させられたらいいよ」
「ただでさえ胸糞悪いのに、自分の口で説明なんて無理。ということで拒否権を行使します。……でもスマホは返して」
どうせ却下されることは分かっていつつも、これが俺の本音なので仕方がない。




