245【彩】その頃、彩乃は
私にとって、美咲の“記憶”の件が最重要事項であることは間違いない。
……のだけれど、やっぱりひーくんのことより優先すべきものなんて、この世のどこにも存在しないということで。
私は、彼が考えた当初の予定通り元の位置へと戻った。
すると、それに倣うようにひーくんもすぐ隣へ並んでくる。
その瞬間――
(ここで私が横にずれて、ひーくんとぴったりくっ付いたら……ドキッとしてくれるかな?)
そんな悪戯心が、ふっと芽生えた。
同時に、
(別に私とひーくんがこの場でくっ付いてても、何らおかしなことじゃないし。
くっ付くって言っても、腕と腕が当たるくらいの軽いものだし。
何ならこれのおかげで、美咲のこともさらに隠せるしで……いいことしかないし、ねぇ?)
――という冷静な判断。
もとい、自己正当化も無事に完了。
私はさりげなく横目でひーくんを見つめながら、距離をほんの少しだけ詰めてみたのだが。
「………………」
(むぅ。さっきまであんなに可愛い反応をしてくれてたのに、なんで急に無反応な―――ッ⁉)
……と、思った、その直後。
(ふ~ん、なるほどねぇ~。ここからは再び本気モードですか。
でも相変わらず、自分の意図したものじゃなくて完全に無意識。
つまりこの人は今――私の大事な友達である美咲のためだけに、心の底から本気になってくれてるっていう裏返しでもある……と)
「ふふっ♡」
「あっ? なんで笑った?」
「べっつに~♡
そんなことより、ひーくんは早く水分補給をしなさい!
ここに着いてから、もう何分経ってると思ってるの?」
「おい、待て! 誰のせいで、ここまで水分補給できなかったと思ってんだよ。
どう考えても俺は悪くね―――って、へぇ?」




