239【美】その頃、美咲は(上)
異性が苦手なのにも関わらず、一之瀬君は何とかして私のことを自分達の後ろに隠そうと、彼なりに必死に頑張ってくれていた。その姿を目の当たり――もとい、“当事者として全身で体験”させられた結果。
完全に母性に目覚めさせられてしまったと同時に、さっき見せてくれた強引な一面まで思い出してしまい――
自分がまだ○○の彼女であることも、この世に存在する倫理観も、自分の年齢すらも全部ふっ飛び、完全に“ひとりの女”としての感情に支配されつつあった私は。
そして何よりも。
これまでに感じたどんな類のものとも比べ物にならないレベルの“快感”を覚えてしまったせいで、頭の中は真っ白。正直、立っているのもつらいというか――
(………はぁ、うっ……そ。昔、彩乃に“女は……体より心で……んっ、感じる生き物”って言った、ことがあるけ…ど……)
(心だけでこんなに……っ、なるなんて……知ら、んぅ……ない……)
という感じで、目に見えない沼にずぶずぶ引きずり込まれかけていた、その時。
『むぅ、またそうやってクールぶって屁理屈みたいなことを言う! ひーくんのばかっ!』
と、真後ろから恋人同士の痴話喧嘩が聞こえてきて――
先ほどまでピンク一色だった私の脳内に、“一之瀬陽太情報”という名のドス黒い女除けが、バケツでぶちまけたみたいに大量流入してきた。
(………萎えた。完全に萎えた。
ていうか、私をここまで魅了して溺れさせてきた一之瀬君が恐ろしいって話は一旦置いといて……何この気持ち。本っっ当に最悪なんだけど)
(てかさっきまで一人でしてたイケない妄想の途中で感じたやつの、数百倍の威力あるんですけど。“害虫除け”もとい“私だけのひーくん計画”。)
と、一人心の中でウゲッていたところ――
気付けば痴話喧嘩はイチャイチャタイムへ突入していた……どころか。




