232【彩】小悪魔の仕返し、ときどきヤキモチ
(私が着てる上着って……それ、ひーくんが貸したウィンドブレーカーであって美咲の物じゃないでしょうがっ!
って言いたいところだけれど……まあ今回は、さっきの件を反省してか大声を出さなかったうえに、傍から見ても分かるくらい弱々しい力で裾を引っ張ったのにちゃんと気付いてあげたから……そこは目を瞑ってあげるけれども)
「ぁ……」
本当に小さい、その一言。
最初からひーくんに意識を向けていないと絶対聞き逃すような声だったのに――
それを拾った美咲は、私の真似をした“お姉ちゃんキャラ”ではなく。
まるで、
自我が芽生え始めたばかりの子に優しく寄り添う母親とか、
泣きながら気持ちを伝えようとしている幼児の背中をそっとさする保育士さんみたいな顔で。
「んっ、どうしたの?
……って、あれ? なにその、不機嫌そうなのに可愛い顔。
ていうかさっきから、表情も感情もコロコロ変わりすぎじゃない?
もしかして私……遊ばれてる?」
「あーあ、美咲がひーくんのこと馬鹿にするから機嫌悪くしちゃったじゃん。
時間ないのに、これ以上ややこしくしてどうするのさ」
「……一応言っとくけど彩乃、今のあんたさ。
言ってることと顔が一致してないよ?
“性悪女です”って自己紹介してるみたいに口角上がってるけど大丈夫?
主に一之瀬君の前でって意味で」
(おっと。自分で“美咲のことどうにかしなさい”って言ったくせに……。
目の前で見てたから、ついヤキモチ焼いちゃった♡)
「佐々木彩乃って女はね、そこらの上っ面だけ良い子ちゃんとは違って、
彼氏の前でも素の自分でいられるの。
それを全部受け入れてくれるのが、一之瀬陽太君――つまり、私の彼氏ってわけだけど……それは置いといて」
そして、美咲の目をじっと覗き込んで。
「実は。
泣いてるひーくん見て“可愛い”って思ったでしょ?
場所も状況も関係なしに、ちょっと構いたくなったりして。
“こういう男の子と付き合うのも悪くないかも”って、考えちゃったよね?」
「――――っ⁉」
(ほんの一瞬、ひーくんを狙う雰囲気を出したけど……私の布石の前では何もできなかったし。
それに何より、“ひーくんが私のために頑張ってる”って分かった瞬間、全部どうでもよくなっちゃったんだけどね)
(とはいえ。“未遂”であろうと、うちの男にちょっかいを出そうとした以上――
仕返しのチャンスは見逃さないよ?)
冷えた声を落とす。
自分でも驚くくらいのトーンで。
「変態」
「っ~~~!」
その一言がかなり効いたらしく、美咲は真っ赤になって俯いてしまった。
……まあ、ちょっとだけ満足。
そんな中、横で不機嫌モード継続中のひーくんが、小声でぼそり。
「(いや、そういう彩乃も変態だろ……)」
「ん〜……ひーくん?
今、お姉ちゃんに向かって失礼なこと言わなかった?」
「ふん」
「ふ〜ん?
ひーくんはお姉ちゃんに、そういう態度をとるんだ。
じゃあもう、ここでは何があっても絶っ対助けてあげないし――」
にこーっ、と完全に“悪い顔”で笑って。
「ついでに、“いきなり泣き止んだのに不機嫌が悪化しない理由”を。
ここにいる美咲に、こっそり教えちゃおうかな〜♪」




