226【美】その頃、美咲はⅠ
『ひ〜く〜ん?
まさかとは思うけど……今、私から逃げようとしたわけじゃないよねぇ?』
『『――――っ⁉』』
(……あ、私じゃなくて一之瀬君の方ね。
はぁ〜……ビックリした。
ていうか今の彩乃の一言で、
さっきまでの“俺様一之瀬君”が嘘みたいにしおらしくなったんだけど……
普段この二人の間で何が起きてるのよ)
ついさっきまでの私は、
半分パニックみたいになって、この場から逃げ出そうとしていたはずなのに――
あまりにも衝撃的な光景を目の前で見せられて、
一瞬、思考が止まった。
(彩乃には悪いけど……
こんなにカッコよくて、ちょっと強引で、
でも時々母性本能までくすぐられるような男の人なんて……
世界のどこを探しても、漫画とかドラマの中にしかいないレベルなんだけど)
そんな“非現実みたいな存在”が――
突然、自分の目の前で本当に存在してしまったら。
友達として以前に、人として絶対やっちゃダメなのは分かってる。
でも一人の女として、その魅力を
見せつけられただけじゃなく、体感させられたのなら――
踏みとどまるだけで精一杯になるのも……仕方ない。
『ひ〜ぃ、くん♪』
そして、その一之瀬君の“彼女”である彩乃が、
まるで挑発するみたいに甘い声で呼びかけながら、
堂々と彼にくっついて見せつけてくる。
例え目の前でそんなふうに、
“自分の彼氏の魅力に気付いた女”に対して
牽制のようにいちゃついてきたとしても――
……それでも。
さっきまでの強引で、男らしくて、
思わずついて行きたくなるような一之瀬君とは違う――
可愛くて、甘くて、守ってあげたくなる一之瀬君が見られるのなら……♡
胸の奥が、きゅんとするのを止められなかった。




