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221【陽】逃げ道は、最初からなかった
『ひ〜く〜ん〜?
まさかとは思うけど……今、私から逃げようとしたわけじゃないよねぇ?』
その声を聞いた瞬間、背筋がひやりと冷えた。
逃げる、なんて選択肢はもう消え失せた。
そして気付く。
ただでさえ近かった 藤村 と俺の距離が、いつの間にかさらに縮まっていることに。
ほんの少し近づいただけなのに――
胸の奥に長く押し込めていた“弱さ”が、堰を切ったように溢れ出してしまった。
(もう……嫌だ。
人助けなんて、らしくないことするんじゃなかった。
まだ半分もやってないのに……もう限界だ)
(ん〜〜……もう嫌だ! 本当に嫌だ‼
今すぐ彩乃に抱きつきたい。
ぎゅ〜ってしたいし、ぎゅ〜ってされたい。
温もり感じて……いつもみたいに安心したい)
(体育祭とか優勝とか、どうでもいい。
とにかく早く家に帰りたい。
何もかも忘れて――彩乃の腕の中で……)
「ひ〜ぃ、くん♪」
胸の奥でこぼれそうになっていた弱音を、
見透かしたように
甘く、けれど少しだけ意地悪な声音が後ろから包み込んだ。




