219【彩】その頃、彩乃は
(ちょっ……今の見た? 見たよね⁉ 見た‼
理由はどうあれ、私のひーくんに後ろから抱き留められるだけじゃなく、口まで塞がれて満更でもなさそうって……あれ普通に犯罪なんですけど‼
いやもう逮捕! 逮捕! 現行犯逮捕‼)
(ていうかここからじゃ二人の表情も見えないし、会話も聞こえないしでイライラする……。
でも私はさっき“ひーくんの手で直接”口を塞がれたし?
ついでに今、美咲が着てるウィンドブレーカーは、私の方がひーくんよりも着てる時間が長いから……全然ひーくんの匂いしないんだよねぇ〜)
そんなふうに心の中でぷんすか怒ってはいるものの――
美咲への対応と私への対応の“差”とか、普段の女避け対策とか……考え始めると、まあ色々複雑ではある。
(でもさ……相手が“私じゃない”女になった瞬間、“俺様ひーくん”の維持ができなくなって、途中から明らかに無理してたよね。
それでもまだ頑張ろうとしてるひーくん……可愛すぎるんだけど♡)
私は、ひーくんに限っては、どれだけ離れていようと――
仕草ひとつ、何気ない動きひとつで心情が分かってしまう。
だからこそ、二人がこっちに向かって歩き始めた瞬間には、もう全部お見通しで。
わざと怒ったフリをしながら、小さく手招きしてみせる。
(ん〜? あれは……完全に“この場から逃げようとしてるいけない子”の顔だねぇ♡)
「………………」
「ひ〜く〜ん〜?
ねぇ、まさかとは思うけど……今、私から逃げようとしたりしてないよねぇ?」
「「――――っ⁉」」




