119【陽】理性と衝動のあいだで
「(ねぇ……今日、ひーくんの家に泊まりに行ってもいい?)」
(――これが、“男は体で、女は心で感じる”ってやつか。……なるほどな)
「今日は着替え、持ってきてないだろ? だからダメ」
「(じゃあ明日は、着替えを持って部活に行く)」
「ちゃんと次の日に着るジャージも、忘れるなよ」
「(……ひーくんの家にお泊まりするのは明日でいいけど。今日は今日で、もう少しだけ一緒にいたい)」
「………………」
分かってる。
今の言葉が、どういう意味を持つのかくらい。
男っていうのは――どうしたって“セ○クス=快楽”っていうイメージを抱く生き物だ。
俺だって、例外じゃない。
正直、頭の中には色んな“願望”が次々と浮かんでいた。
(キスもしたい。抱きしめたい。
触れたいし、確かめたいし――彼女の全部を知りたい)
でも、それだけじゃない。
(彩乃は俺の性欲を満たすためのラ○ドールでも、ただのセ○レでもない。
今の彼女を見てると、きっと“セ○クス”ってのは体だけで気持ちよくなる行為じゃないんだろう)
(――けど、ここで何もせずに突き放したら、それはそれで彩乃を傷つける)
だから俺は、深く息を吸い込んだ。
そして心の中で“これ以上はしない”と決めてから――ゆっくりと、彼女を抱きしめ返す。
体温が伝わる。
鼓動が重なる。
それだけで、十分すぎるくらいに“好き”が伝わる気がした。
耳元に顔を寄せて、囁く。
「(好きだよ、彩乃)」
「(……私も好きだよ、ひーくん♡)」
その瞬間、世界が止まったようだった。
時間も音も消えて、ただ互いの息づかいだけが重なる。
――でも、俺はそのまま笑ってみせた。
「……でもそろそろ、店長が戻ってくる時間だから。この続きは……また今度な」
(まったく。よりによって、こんなタイミングでこんなメモを残していくなんて……)
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メモ用紙
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《彼女ちゃんへ。ちょっと買い出しに行ってくるからお留守番よろしく。
P.S. あなたたち以外にお客さんは一人もいない&一時間後くらいに帰ってきます》




