111【陽】ホワイトデーの答え合わせ
本当は、朝からずっと手を繋ぎたかった。
でも勇気が出なくて。
ようやく繋げたと思ったら――不思議なもので、終わってほしくない時間ほど、あっという間に過ぎていく。
目的地に着いたのを悟った彩乃は、そっと手を放し、小さく首をかしげた。
「へえ……こんなところにカフェがあったんだ。ちょっと大人向けの雰囲気で、入りにくそうだけど」
「確かに客層は高めだけど、ここは校長の友達が趣味でやってる店だから。大丈夫だって」
そう言いながら扉を開けると、オーナーの女性が出迎えてくれる。
案内されたのは店の一番奥、四人掛けのテーブル。
……で、去り際に妙に見覚えのある“どこぞの爺さん”みたいなウィンクをされたのは、気のせいだと思いたい。
とにかく。これ以上詮索されても面倒なので、飲み物が届くのを待ち――。
一口、二口飲んだところで、俺は鞄から小さな紙袋を取り出した。
「これ。……ホワイトデーのお返し」
差し出すと、彩乃はふっと柔らかく微笑んで――
「ありがとう。……ねえ、今開けてもいい?」
「……うん」




