109【彩】その頃、彩乃は
私の腰に回された左手と、頭に添えられた右手。
慣れていないせいで少し居心地悪そうなのが伝わってきたけれど――それでも必死に頑張ろうとしている気持ちも、ちゃんと伝わってきた。
その瞬間、心地よさやら保護欲やら独占欲やら……とにかく色んな感情が一気にあふれ出して。
私は彼の胸に顔をうずめながら、今度は自分からしっかりと力を込めて抱きしめ返した。
するとそれが、ひーくんの中では「女の子の扱い方の正解」みたいな確信に変わったのか――。
「彩乃が今泣いてる原因は俺にあって。
それに、彩乃が毎日弁当を作ってくれてた理由の一つに、お金じゃ返せない何かがあるってことまでは分かった。……でも、その先はどうしても分からないんだ」
(ひーくんは、明日香に怒られてからずっと――私が泣いた理由を考えて、考えて、何度も考え続けてくれたんだよね。
……でも、どうしてもそこで詰まっちゃった。
だけど、そこまで考えてくれただけで本当に嬉しい。今のあなたがここまで分かってくれたなら、もうそれだけで100点満点だよ)
(だからこの先は、一緒に考えて。二人で、次に繋げていけばいいんだよ……)
「でも二度と同じ失敗はしない。……いや、もう二度と彩乃を泣かせたりしないって誓う。
そもそも別れる気なんて一ミリもない。だから――もう少しだけ時間をくれ」
男女で考え方が違うのは当たり前。
『なんで私の気持ちを分かってくれないの?』なんて一方的に怒っても、意味なんてない。
それに、ひーくんみたいな恋愛下手な人には――「一緒に、どこが悪かったのか考える」ことの方が大事。
そう思っていたけど……。
彼氏が「自分のためだけに頑張る」なんて言ってくれたら、期待しないわけがない。
その気持ちに応えるように、私は抱きしめる力をほんの少し強めて――小さな声で囁いた。
「……じゃあさ。絶対に私と別れないっていう証拠――ホワイトデーのお返しで、ちゃんと見せてもらおうかな?」
(……ちょっと意地悪すぎたかな? でも、撤回なんて――してあげない♪)




