98【陽】でも――彼女ができたことは言わない
結局、あの後没収された生チョコが戻ってくることはなかった。
仕方なく諦めることにした俺は、彩乃と一緒にバスに乗って駅前へ行き、そのまま横並びで改札を通る。
「じゃあ私はこっちだから」
「うん、じゃーな」
そう言って手を振ると、彩乃はなぜか嬉しそうな顔をしながら振り返してくれた。
そのままエスカレーターに乗り、ホームへと消えていく。
(……んじゃ、俺もバスに乗って帰るか)
「すみません、ちょっと忘れ物をしちゃったんで外に出たいんですけど」
「それでは一度S○icaをお預かりしますね」
(実はさ、今の一人暮らしの家は学校の近く。電車どころかバスすら乗る必要ないんだよな。……でも、好きな子とは少しでも一緒にいたいじゃん? 普段は部活もあるし、こうして下校できる機会なんて滅多にないし)
(……まあ、ちょっと重いかもしれんけど)
「はい、S○icaをお返しいたします。出口はこちらになりますのでご注意ください」
「ありがとうございます」
……まあ、何事もバレなければOKでしょ!
と、クズ精神で思考放棄した俺はスーパーで買い物をしてから帰宅。
一人で晩飯を食べていると、母さんから電話がかかってきた。
『もうこっちに帰ってきたの?』
「ああ、今飯食ってたとこ。……そうだ、今年も担当さんからチョコもらったんだけど、お返し何にすりゃいいと思う?」
『うーん、値段にもよるから一概には言えないけど……無難なのは去年と同じ、ちょっと高めのお菓子とかかな。写真か実物を送ってくれれば目星つけられるけど』
「残念ながら、もう人にあげちまったからそれは無理だ」
『なんで?』
「なんでもいいだろ。……てか考えてみたら、母さんよりもその人の方が年齢近いし、直接相談した方が早い気がしてきた。ってことで、風呂入るから切るわ」
『そう、じゃあまたね』
そう言って母さんの方から通話を切った。
俺はスマホをベッド脇の充電器につなぎながら考える。
(とりあえず明日、学校で彩乃に相談して……もしOKしてくれるなら一緒に買いに行けば……)
(……あ、明日から春休みじゃん)




