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9話 逃亡OLとザコ精霊(生贄)

 ベーシックに白いタヌキの首を飛ばそうかと思ったが、残りのMPも少ないのでとりあえず止めにした。



「そうだ。記憶と命を飛ばすまでボコボコにぶん殴ろう」


「や、やめてください。ボク死んじゃいますよぉ!」



 白いタヌキは器用に鳥籠の中で土下座した。



「申し訳ございません! つきましては、ボクをあなた様の従者にしてもらえないでしょうか!」


「え、この状況で私に要求してくるの? タヌキかなり図太いな」



 私がある意味で感心していると、それを好機と見たのか白いタヌキは逆海老ゾリ土下座に移行する。



「盗賊たちのスキルを奪ったということは、おそらく<精霊使い>のスキルをお持ちのはず。そちらでボクのことを使役してください。さすれば、あなた様には絶対に逆らいません!」


「私にメリットがあるとは思えないんだけど」


「ボクは人間界に来て10年目です。あなた様よりも世情に詳しいはず」


「ふーん。私にここでの常識がないって分かるのか」


「ボクは他者の機微に敏感なんです。特技は他人の顔色を窺うことでございます!」



 ぷるぷると震える白いタヌキを見ながら、私は考える。


 人ではないとはいえ、この世界のことを教えてもらえる存在は希少だ。


 それに<精霊使い>は相手を使役するスキル。裏切られる確率が低いのもありがたい。


 懸念事項があると言えば、この白いタヌキは戦闘に役立ちそうにないこと。また現在のスキルランクでは精霊が1体しか使役できず、その貴重な枠を白いタヌキに使っていいのかという問題である。



「まあ、裏切らないのが一番か。いざとなれば、首を飛ばして枠を空ければいいし」


「ぶ、物騒すぎるんですけど!?」


「ほら喜びなよ。私の精霊にしてあげるんだから」



 私がそう言うと、白いタヌキが顔を上げる。



「あああ、ありがたき幸せ!」



 脳内に祝音が鳴り響き、目の前に白いタヌキのステータスが浮かぶ。




********* 


名前:なし

性別:無性

年齢:110歳

種族:無の精霊


レベル:1

HP:15/20

MP:20/20


筋力:1

攻撃:1

防御:4

知力:3

素早さ:1

幸運:1



ノーマルスキル

なし





 おめでとうございます!


 スキル<精霊使い>を発動し、無限なる可能性……があるかもしれないしないかもしれない……そんな現時点ではクソの役にも立たない弱小ザコザコ精霊を使役しました。


 名前をつけてあげてください♪



*********



 弱すぎる。あまりにも。


 まあ、最初から白いタヌキの性能には期待していないので、名前を考えることにした。


 そして3秒も経たずに決定する。



「名前はシロタで」



 白いタヌキから取ってシロタだ。分かりやすい。



「ありがとうございますぅ」



 シロタはうるうるとした瞳で私を見上げる。



 私は笑みを浮かべると、ゴブリンキングの剣をシロタに向けて振るった。



「ひぃっ」



 鳥籠の上部が綺麗に切断される。


 私は腰が抜けたシロタを持ち上げた。



「仲間になったから、さすがに鳥籠の中にずっと入れて置くのもね」


「あばばばば、あり、が、とうござ、います」


「どういたしまして。あと、私はおそらくこの国で指名手配中の極悪犯罪者だから。危険な旅になると思うけど、いざとなればシロタを盾にしても生き残るというマインドで生活するから。末永くなるかは分からないけれどよろしくね」


「…………え」



 私は盗賊から奪った毛布をアイテムボックスから取り出すと、大木の根元でまるくなった。



「じゃあ、これから私は仮眠するから。今日は日中に色々と済ませたいんだよね。シロタ、魔物が近づいてきたら起こして」


「と、とんでもない人をご主人様にしてしまったぁぁああ!?」



 焦る声を上げるシロタを置いて、私は夢の世界へと旅立つ。


 







 そして、数時間が経過した。



「ふぁーあ。良く寝た」



 普段は一睡もせずに出勤……なんてこともあったけれど、流石に戦闘がいつ起こるか分からない状況でそれはしたくない。


 仮眠したおかげで思考はクリアだ。



「おはよう、シロタ」


「まさか、契約してすぐに寝るとは思っていませんでしたよ……」


「何か話したいことでもあったのか?」


「ありまくりですよ!」



 シロタは尻尾をぶるりと震わせた。



「ご主人様と契約した際、神の祝音が聞こえました。きちんとお仕えするようにと」


「あー、あのレベルアップしたりすると毎回脳内に響くやつね」


「通常、神の祝音が響くことはありません。何故なら、神は暇ではないからです。常時、祝音が響くのは『姫』と『勇者』のみだと言われています」


「まあ、私は一応『勇者』みたいだけど」


「あの噂は本当だったのですね……」



 シロタ曰く、ここロベリア王国では勇者召喚の儀が近々行われるともっぱらの噂だったそうな。


 異世界からの勇者召喚は高い代償があり、通常は国民の中から『姫』が『勇者』を選ぶらしい。


 だが、今のロベリア王国にはお姫様の望むような資質を持った男性はおらず、数千年ぶりに異世界から召喚することになったらしい。


 どんな代償を払ったとしても、神に愛されたお姫様の言うことは絶対だそうだ。


 そもそも『姫』というのは、ただの王族のことではない。神に愛され、姫を冠するスキルを与えられた女性王族のことを言う。


 簡単に言うと、神の愛し子ってヤツだ。なぜか王族に連なる女性しか選ばれないらしいが。


 勇者はそんな神の愛し子に選ばれた素晴らしい存在らしい。


 まあ物事の主導権を握っているのは『勇者』ではなく『姫』の方みたいだけど。



「……ちょっと待って。私はあの誘拐犯に愛された覚えないんだけど。それに別の勇者もいたし……」


「では、別の神の姫に選ばれたのでは?」



 シロタには私のおおよその状況を伝えてある。そんなシロタの言葉に私は目を見開いた。



「この世界の神は複数いるのか。面倒そうだな……」


「戦と遊戯の神、繁栄と自由の神、恋愛と誓約の神……この三神がこの世界を創造したと精霊界では言い伝えられています。この辺りで有名なのは、戦と遊戯の神に愛されたロベリア王国エリーゼ王女だけですが、知られていないだけで他の国に『姫』がいるのかもしれません」


「いやいや、私は初めまして異世界みんな初対面状態なんだけど。そのエリーゼ王女?以外にそれらしい王族とは出会っていない。すぐに森に逃亡したし」


「通常、王妃の子から一夜の過ちの子に至るまで、王族の血が入った女子は全員スキル鑑定を受けるはずです。エリーゼ王女以外の『姫』がいたら、他国だろうとすぐに噂が出回るはず」



 私とシロタはそろって首を傾げる。



「分からないことを考えても仕方ないか!」


「ですね!」



 私は神だの、姫だの、勇者だのは脇に置いておくことにした。



「そんな1円も稼げないどうでもいいことより、魔物をいっぱい殺しに行こうか!」


「……ボクのご主人様こわー」



 シロタは怪物を見たかと思うほど、引いた笑みを浮かべた。


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