7話 逃亡OLの都合のいい実験体(盗賊)
私には一つ疑問がある。
魔物と同じように、人間のスキルを私へ転移できるかということだ。
私の予想では、人間からのスキル転移は可能である。
ステータスなどファンタジー要素の強い世界ではるが、ここは間違いなく現実だ。
流動的な世の中で、ゲームのようにシステムが自動的に敵味方を判別する、なんてことは無理なはずだ。
まあ、あくまでも私の予想なので、違う可能性もあるが。
それは今から盗賊で実験して確かめようじゃないか。
「……ふむ。どうやら、盗賊たちは酒盛りをしていると」
<聴力>を使い、私は盗賊たちの潜伏先と思われる洞窟の様子を伺った。
村を焼き討ちしただの、貴族の馬車を襲っただの、女子供なぶり殺し系のあるある犯罪武勇伝を楽しくおしゃべりしているようだ。
盗賊は夜に活動するイメージがあるが、こんな魔物だらけの山の中だと朝から規則正しく生活するらしい。
「はてさて、どうするか」
これから人間のスキルを奪うにあたり、明確なルールを作ろうと思う。
たとえ、誘拐犯たちの国民であろうと、便利そうだからなんてフランクな理由で一般人からスキルを奪うのは、常識的に考えてよろしくない。
普通に考えて逮捕案件。下手すれば死刑になるかもしれない。
「かといって、人間のスキルを奪わないのはもったいないんだよねぇ」
先ほどのゴブリンキング戦からも考えて、強いスキルは時にレベル差にも打ち勝つということが分かった。
なんの伝手もない異世界人で、さらに追手がかかっている身。そんな状態だからこそ、強いスキルは私が生きていく上で必要不可欠である。
「やっぱり犯罪者のスキルを奪うのはアリにしよう。それと、私の命を狙ってきた奴もいいか!」
自分の中でスッキリと明確なルールを決めたところで、私は目の前の盗賊のアジトへと意識を向ける。
「ひとまず、盗賊で実験をしないとねぇ」
洞窟の前には、やる気がなさそうに欠伸をしている見張りが一人。武装は槍一本。しかし、魔法という概念があるので、油断は禁物だ。
「見張りは騒がせずに楽しく処理しよっと。チンピラのパンツを<転移><転移>」
見張りの盗賊の口の中にチンピラからの戦利品である使用済みパンツを転移させ、ついでに目隠しのために頭にパンツを2枚被せる。
我ながら最悪な攻撃だよね。
当然、見張りの盗賊は臭いと驚きでパニックになった。
彼が他の盗賊に知らせる前に、私は次の行動に移る。
「たぶん弱めの<毒霧>を<転移>っと」
見張りの盗賊の顔を覆うように習得したての<毒霧>を転移させると、彼は成すすべもなく倒れた。
見張りの盗賊の心音は聞き取れる。手加減はできたようだ。
「その辺にあったデカい岩を<転移>、さらに木の枝と葉っぱを<転移>っと」
洞窟の入り口に大岩を転移させて塞ぎ、さらに隙間を木の枝や葉っぱで埋める。これで洞窟に日の光はほとんど入らない。
空気の通りが悪い、それなりに密閉された空間の出来上がりだ。
「弱めの<毒霧><毒霧><毒霧><転移>っと」
発生させた<毒霧>を洞窟の中に転移した。
そこでやっと私は洞窟の入り口の前に来て、ゴブリンキングから奪った剣を構えながら洞窟の中の様子を伺う。
「……もう大丈夫か」
最初は驚いた盗賊たちの怒号や悲鳴がひしめき合っていたが、今はしんと静まり返っている。
「おじゃましまーす」
私が洞窟の中に入ると、5人の盗賊が泡を吹いて意識を失っていた。
一応、心音がするので殺してはいない。
「冒険者たちが来る前に目的を果たすとしますか」
洞窟の中を見渡すが、想像していたよりも物が少ない。奥に食べ物が入っているだろう木箱が数個積み重なっているだけ。あとは酒瓶や粗末な毛布などが地面に転がっている。
「金銀財宝を期待していたんだけどなー。売り払った後か、資金難の盗賊だったのか」
まあ、食べ物は補充したいところではあったので、後で木箱を漁ろう。
「盗賊が起きてきたら面倒だし、先にあれを奪いますか」
一番強そうな大男の盗賊に近づこうとすると、積み重なった木箱の奥から声がした。
「おい、下等種! ボクを助けろ!」
木箱の裏には横倒しになった鳥籠が置かれていた。
「どうだ。ボクの可愛さに恐れおののいたか?」
そこには世にも珍しいドヤ顔をする白いタヌキがいた。
「畜生風情がうるせぇんだよ。毛皮を剥いで売り飛ばすぞ。この臭み肉が」
「ひょぇぇええっ!?」
なんかイラついたんで、軽く脅してみた。