6話 ゴブリンキングは逃亡OLの貴重な経験値
色々と私は驚きながらも、いつも通りに巨大ゴブリンからスキルを転移させた。
続けて脳内に通知がくる。
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▶ゴブリンキングをからスキル<直感A><剣術B><剣撃A><加速B><風魔法A><指揮官C>を転移しました。
▶蜂須莉々菜のスキル<剣撃>の熟練度がD→Bになりました。
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「ひとまず、落ち着いた場所でステータスの確認をしますか」
私は更に強化された身体能力を確かめながら、ゴブリンキングの死体から離れることにした。
便利そうなゴブリンキングが持っていた剣もついでに拝借する。
「<加速>……おっ」
スキル名を言葉にすると、通常スピードよりも3倍は早く身体が動く。
木々にぶつかりそうになるが、寸でのところで軽やかに避ける。スキルの効果時間は1分ほどだろうか。
「あ、魔物。<転移>」
紫と黒の縞々模様の蛇がいたので、とりあえず胴体を真っ二つにしてみた。
当然のごとく流れ作業のように蛇の魔物のスキルを転移させる。
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▶ポイズンスネイクから<毒霧E><毒耐性B>を転移しました。
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いかんいかん。魔物を見るとスキルにしか見えなくなってきている。
ぶっちゃけ、この世界での魔物の扱いが分からないのに殺しまくっている状況は良くないだろう。
後でスキル転移については明確な決まりを作らなければ。
今まで通りに、真っ当な人間として生きるためにもね。
「この辺りでいいかな」
ゴブリンキングの死体から5キロメートルほど離れた場所で、私はステータス画面を開いた。
そして、気になるスキルをタップしていく。
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名前: 蜂須 莉々菜
性別:女
年齢:22歳
種族:異世界人
レベル:56
HP:8400/8400
MP:3230/5600
筋力:896
攻撃:1288
防御:336
知力:448
素早さ:672
幸運:280
レジェンドスキル
勇者G
ユニークスキル
転移F 天下無双
ノーマルスキル
打撃B 聴力C 剣撃A 短剣術D 嗅覚E
棍棒術E 弓術C 視力E 身体強化D 風魔法A
鍛冶D 直感A 剣術B 加速B 指揮官C
毒霧E 毒耐性B
スキル<天下無双>
戦闘時、自身の攻撃力を1.2倍。さらに自身よりレベルが上の相手に対して攻撃力を1.5倍追加する。
スキル<風魔法A>
風属性の適正を得る。魔法威力・効果はランクに依存する。
スキル<鍛冶D>
鍛冶の適正を得る。ランクが高いほど鍛冶技術が上がる。
スキル<直感A>
ランクが高いほど直感の精度が良くなる。
スキル<指揮官C>
100人を統率する能力を持つ。
スキル<毒霧E>
毒霧を生み出す。威力・範囲はランクに依存する。
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「ユニークスキルと謳っているだけあって<天下無双>めっちゃ強いな。ランクは表示されていないから、これ以上強化されることがないのか?」
レベル差のある相手に強気に出られるのは、この世界での生存率を高めるのではないだろうか。
けれど、油断はできない。私のステータスは防御が低くて、攻撃がめちゃくちゃ高い。
レベルの高い相手から攻撃を食らったら、普通に死ぬんじゃなかろうか。
なんというか、鉄砲玉みたいな性能である。
「防御系のスキルが欲しいところだけど、まずは自分のスキルの把握が先かな。えーと、<風魔法>」
何も起きない。
スキル名を言葉にするだけでは発動しないということは、呪文とか道具とか他に必要な要素がある可能性が高い。
<鍛冶>のスキルとかもその類いじゃないだろうか。
「こっちはどうだろ……<毒霧>」
もわりと私の周囲1メートルほどが紫の霧に包まれる。
「ポイズンスネイクからもっとスキルを奪ってランクを上げたいな。見つけたら片っ端から<転移>して殺そう」
私は<毒霧>に便利な無差別範囲攻撃としての可能性を見出した。
一通り確認も終わったし、休憩でもしよう。
……そう思ったんだけど、ここから200メートルほど離れた場所から人の会話が聞こえてきた。
『この辺りに本当に盗賊の根城があるのか?』
『冒険者ギルドからの情報だから間違いない。この先の崖上にある洞窟だ』
『まさか、ゴブリンキングの縄張り近くに盗賊の根城があるとは思わないだろ』
『だからこそ、盗賊たちは油断している。この辺りにはゴブリンキングに勝てる高ランク冒険者はいないからな。そもそも冒険者が寄り付かない』
『どっかの馬鹿が西の森でゴブリンを殺していたみたいだし、ゴブリンキングはそっちに意識が向くはずだな。今の内に盗賊共を殺そうぜ。そして、依頼金をがっぽり貰うんだ』
『生かして鉱山送りにした方が、生産性があって世の中のためになるんじゃねーの」
数人の男たちの会話を聞き、私は笑みを深めた。
「ちょうど、人間で実験がしたかったんだよねぇ」
盗賊なんて、おあつらえ向きな実験体じゃない?
私は崖近くの木の上に転移した。