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45話 ハーチス子爵とダンジョン 前編


「ここでありんす」



 ツバキに案内されたのは世界樹の根元だ。


 そこには不自然に古いアパートのような狭いドアがあり、世界樹に埋まっている。



「なんだこの世界観台無しの扉は」


「ダンジョンの入り口でありんす。世界的に見ても、こんなショボい扉はそうありんせん」



 ツバキは資料を取り出した。そこには主に男性の似顔絵と名前が並んでいる。



「このダンジョンに入って戻って来ていない観光客と冒険者でありんす。50年の間に30人ほど訪れんしんした。ちなみに生還者は一人もいません」


「死のダンジョンか。一般的……ではないだろうな」


「ダンジョンは魔物の一種だと精霊界で習いました。ダンジョンに入った者を全員殺したら、餌である人間たちが来ないじゃありませんか。魔物だったら、本能的に察すると思うのですが……馬鹿なんですかね」



 シロタがそう言うと、エンジュが手を上げる。



「ダンジョンは基本的には財宝で冒険者を呼び込みます。冒険者が死ぬこともありますが、難易度に合ったダンジョンを選び堅実に行動すれば運が悪くない限り死ぬことはないと聞きます。ここが必ず死ぬダンジョンだというのは、世界樹の中にあるというのが関係しているのだと思います」


「どのみち、入ってみないと分からないか」


「危ないですよ、リリナ商会長!」



 エンジュは止めるが私は彼女を手で制した。



「誰かが確認しなくちゃいけないのだから、ここで一番強くて脱出方法を持っている私が行くのが効率がいいでしょ。あと、ついでにシロタ」


「……やっぱり、ボクも行くんですね」



 死なない精霊って便利だよな。ついでにシロタのレベリングをしよう。



「あい! わっちも行きんす。これでも腕には自信がありんす!」



 ぴょんぴょんとツバキが手を上げながら飛び跳ねた。



「ならふたりと一匹でダンジョンに入るぞ。エンジュは待機。明日の朝までに私たちが戻らなかったら、賢者リュネルにでも連絡して」



 私のストーカーであるリュネルなら、どうせ今の状況も見ているだろ。



「……水と食料、武器は十分だな」



 アイテムボックスを確認し、私はツバキに視線を移す。



「準備は?」


「できてやす!」



 ツバキは持っていた巾着の中から双剣を取り出した。どうやらアイテムバッグ持ちのようだ。



「シロタさん。リリナ商会長をよろしくお願いします」


「ボクがどうにかしなくても、ご主人様は勝手に突き進むので心配しなくて大丈夫ですよ」



 エンジュは自分のアイテムバッグの中から大きなクマのぬいぐるみを取り出した。シロタはそれに乗ると、スキル<人形師>で動かす。



「ご主人様、ボクも準備ができました」


「それじゃあ、死のダンジョンに行きますか」



 私は扉を開け、ダンジョンの中に入る。


 すると景色が移り変わり、無機質な灰色のレンガで作られた通路のような場所に出た。壁には松明が掲げられ、薄ぼんやりと周囲を照らす。



「……窓はないようだな。地下道のようなものか?」



 道幅はだいたい5メートルほど。ふたりと一匹なら、武器を振り回しても余裕そうだ。



「世界樹の中が人工的な通路って、なんだか不思議ですね」


「ダンジョンは階層ごとにテーマが異なるのが一般的でありんす。森のような場所や、人間が住むような城、時には雪山や海に出ることもありんす」


「なるほど。RPGやファンタジー作品と一緒か」



 私は狭い場所で振り回しやすい短剣を手に持ち、周囲を警戒する。



「びっくりするぐらい魔物の気配はないな」


「え! 安全ってことですか、ご主人様。あー、良かった良かった」



 シロタがご機嫌に一歩を踏み出すと、床のレンガタイルの一つが沈んだ。



「うぎゃぁぁあああ!」



 壁の横から複数の槍が出て、シロタを無残に突き刺した。





*********



 ▶シロタが死にました



*********




「はいはい」



 脳内にいつものアナウンスが流れた。


 突き刺さった槍を抜くと、シロタがびくびくと身体を痙攣させながら生き返る。



「殺意高うござりんすね」


「ギミックで殺すタイプのダンジョンか」


「誰もボクの心配をしてくれないんですか!」



 だって、シロタ死なないし。



 私はシロタを無視した。



「こりゃ人気の出ないダンジョンだな」


「ここのダンジョンを知っているのは、皇帝陛下と賢者様だけでありんすが、仮に一般開放されたとしても人気は出のうござりんしたでありんしょうね」


「なるほど。センスゼロのダンジョンということですね!」



 シロタがそう言った瞬間、背後でゴゴゴゴゴと何かが近づいてくる音がした。


 後ろを振り向けば、大きな石で出来た玉が通路を潰すように転がってくる。



「ベタ過ぎるな。マイナス100点」


「採点している場合ですか!」


「やみくもに走ってもトラップに巻き込まれましんす」


「なら対処は一つだな」



 私は大玉に向かって走り出す。


 脇を閉め、右手をスキル<防護皮>で固くしてぶん殴る。


 破裂音が耳に響き、大玉が岩に変わる。



「一つ目の方法で突破できたな」



 いくつか方法を考えていたが、シンプルに殴るだけで終わった。



「この程度のトラップだったら簡単だな」


「深層にあるコアを壊せば、ダンジョンは消滅しんす。ただ強固に守られていると思いんす」


「サクサクいくか」



 私はシロタをぬいぐるみごと掴み、そのまま走り出す。


 先ほどと同じ槍が出るトラップは蹴り飛ばして前に進み、石の大玉は殴って破壊し、落とし穴トラップはジャンプか壁に槍を差して回避する。


 かれこれ1キロぐらい走っているが、この3つのトラップしか発動していない。



「道は割と単純。トラップもショボいし、殺意は高いが安いダンジョンだな」


「領主様、強すぎでありんす!」



 そうは言うが、ツバキもまた余裕の表情で私に付いてきている。


 ……本当にただの文官か?



「ん? ここが第一層の終着点か」



 特にひっかけの道もなく、数キロで到着した。通路の先には世界観に合わない地味なふすまがある。



「結局、魔物は出なかったな」



 私は第二層に向かうため、襖を開けた。


 第二層に広がっていたのは、真っ白い8畳ぐらいの部屋だった。中央には黒色の大きいクリスタルの置物がある。


 もしかして……あれがダンジョンコアか? ガッカリが過ぎるんだが。




「どうか、あーしの命だけは助けてください!」



 クリスタルの前で桃色の髪の幼女が土下座をしていた。

 

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