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閑話 蝶野坂茉莉とクレイトス王子の恋



 エリーゼ姫によって召喚された勇者の友達のひとり、蝶野坂ちょうのざか茉莉まつりは人当たりがよく、どんな場所でも溶け込む才能を持っていた。


 スキル<回復魔法A>を活かし、ロベリア王国の王宮内で瞬く間に地位を確立した。



「マツリ様! この間は足の怪我を治療してくださり、ありがとうございます」



 同い年ぐらいのメイドが茉莉に駆け寄った。



「いいよ、気にしないで! ここでは女の子の肌に傷があると結婚できなかったりするんでしょう。わたしが治せて良かったよ」


「なんと寛大なお言葉。わたくしにできることがあれば、なんでも言ってくださいね」


「そのときはお願いしようかな。……その、恋の……相談とかね」



 恥じらう茉莉を見て、メイドは顔を赤くさせた。



「クレイトス王子のことですね! 王宮のメイドたちも皆応援していますよ」


「うわぁ、知られちゃってるんだ」


「マツリ様に出会ってから、クレイトス王子は変わられたんですよ。以前は影のある方でしたが、今はメイドにも優しくしてくれるんです」


「わたしもクレイトス王子の優しいところが好き!」



 キャァアア!とメイドは歓声を上げた。


 若い女の子らしく茉莉とメイドが話をしていると、窓の外から見える中庭で浅葱あさぎ美桜みお前橋まえばし蒼真そうまが貴族の青年たちと言い合いをしていた。



「お前ら美桜に謝れ!」


「蒼真、あたしは気にしていないから……」


「だが、頑張っている美桜に、コイツらは――――」



 おそらく、貴族たちが美桜に暴言を吐き、それを聞いた蒼真が怒っているのだろう。今や王宮での日常風景だ。


 四属性魔法のスキルを持つ蒼真には敵わないと思ったのか、貴族たちは美桜にしぶしぶ謝罪をした。


 それの光景を見ながら、メイドは眉間に皺を寄せる。



「素晴らしい魔法使いであるマエバシ様を盾にするなんて、あの女は卑怯です! 役立たずのくせに」



 人見知りで弱いスキルしか持たない美桜は、今や貴族や使用人たちからの評価は最低だ。



「そんなこと言わないで! 美桜も頑張っているし、スキルも成長するはずだよ」


「……マツリ様は優しすぎます」



 茉莉がメイドを宥めていると、今度は近くの部屋から何か大きな物が割れる音が響いた。



「何故なのよぉぉおお!」



 若い女の絶叫を聞いて、茉莉とメイドが肩を寄せ合って震えた。



「……なんだろう?」



 恐る恐る茉莉が部屋を覗くと、そこには普段の嫋やかな雰囲気を一変させたエリーゼ姫がいた。


 髪は乱れ、ドレスが破れ、白い手からは血が垂れている。エリーゼ姫の周辺には割れた花瓶の欠片が散らばっていた。



「わたくしのための行動をしろと命令したはずよ! それなのに襲撃の証拠を残した上で全滅ですって? あり得ない。アレは一番使える駒だったはずなのに……」



 エリーゼ姫の手には豪奢な文様の描かれた手紙が握り潰されていた。



(……あの文様は確かアシュガ帝国の物かな? もしかして、何か抗議の手紙とか?)



 茉莉は色々と考えるが、一介の高校生には分からない。とりあえず、怪我人であるエリーゼ姫の元へ駆け寄った。



「大丈夫ですか、エリーゼ姫! すぐに治療しますね」



 茉莉はエリーゼ姫に駆け寄ると、回復魔法『ヒール』を使って治療する。


 そして茉莉はエリーゼ姫の手を両手で包み込んだ。



「何かお悩みですか、エリーゼ姫。わたしで良ければいつでも相談に乗りますよ。あなたはわたしの友達の恋人ですからね」



 エリーゼ姫の怒りを抑えるように、茉莉は笑みを浮かべる。



「……取り乱した姿を見せて恥ずかしいわ。ありがとう、マツリ様」


「エリーゼ姫は国を守っているのだから、大変なのは分かっていますよ。わたし、いつでも力になりますから!」



 茉莉はエリーゼ姫を励ますと、部屋を後にする。


 そしてそのままクレイトス王子の元へと向かった。



「来ちゃった」


「マツリ!」



 桃色の髪をした美しい王子が、満面の笑みで茉莉を迎える。


 茉莉はメイドが用意したお茶を飲みながら、先ほどのエリーゼ姫のことを話した。



「――――やっぱり、王位継承者って大変なのね」


「そうだな。私はエリーゼの兄だが、王位は継がないから気楽なものだ。こうして、マツリとも一緒にいれるしな」


「……クレイトス王子」



 部屋にいるメイドたちが目を逸らすほど、茉莉とクレイトス王子は恋人同士特有のイチャイチャした雰囲気を醸し出している。


 しばらく見つめ合った後、クレイトス王子は机の引き出しから小さな箱を取り出した。



「……約束の証だ、マツリ」



 クレイトス王子は跪くと、茉莉に小さな箱を捧げた。


 そこには繊細なデザインに美しく輝く宝石がふんだんにあしらわれた指輪――――そう、莉々菜がコールライト工房に作らせオークションに出品したあの指輪があった。



「素敵な指輪」


「中古品はマツリには似合わないからな。一番いいものを取り寄せた」



 茉莉は指輪を嵌めると、クレイトス王子に微笑んだ。



「指輪も素敵だけど、何より約束を大切にしてくれていることが嬉しい」


「実はもう一つマツリに似合う物を取り寄せたんだが、それは約束が叶ったときに捧げるよ」


「ありがとう。だけど、無駄遣いはしちゃダメだよ」



 茉莉はクレイトス王子と肩を寄せ合った。


 そしてしばらくすると恋人たちの時間は終わり、クレイトス王子は政務へ行ってしまう。


 茉莉は部屋を出て、なんとなく廊下を歩いていると蒼真に会った。



「蝶野坂か」


「蒼真くん。見てみて」



 茉莉はクレイトス王子から貰った指輪を見せびらかす。



「……すっかりこの国に馴染んだな。元の世界には帰らないつもりか?」


「ここまで愛されちゃったら、帰るのも悪いでしょう」



 茉莉は愛しそうに指輪を撫でた。



「ねえ、蒼真くん。中庭で貴族のお坊ちゃんたちと言い争っているところ、偶然見ちゃった。今のままだと、美桜と付き合うなんて無理だよ」


「……余計なお世話だ」


「わたしはね。幸せのお裾分けをしたいんだ。蒼真くんの恋路を応援してあげる」



 茉莉は優しく優しく――――微笑んだ。



「だから、わたしのお願いを聞いてくれるよね」


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