5話 逃亡OLは命懸けの戦いをしていたらしい
先ほどと同じ要領でゴブリン5体をポポポポポーンと倒すと、また頭の中に声が響く。
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▶レベルが13に上がりました。
▶ゴブリンからスキル<打撃D>を転移しました。
▶ゴブリンからスキル<打撃D>を転移しました。
▶ゴブリンからスキル<打撃E>を転移しました。
▶蜂須莉々菜のスキル<打撃>の熟練度がE→Dになりました。
▶ゴブリンからスキル<剣撃F><短剣術G><聴力E>を転移しました。
▶ゴブリンからスキル<剣撃F><短剣術G><嗅覚F>を転移しました。
▶蜂須莉々菜のスキル<短剣術G>の熟練度がG→Fになりました。
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「さっきのゴブリンよりも強いな。最初のゴブリンは偵察だったのかも」
集団になってから、必ず<聴力>のスキルを持っているゴブリンが1体いる。
なんというか、ゴブリンは最弱のイメージがあったので意外と戦略的に狩りをしているのに驚いた。
「指揮官がいるとか?」
魔物の生態は分からないが、より注意した方がいいのかもしれない。
「たくさんお客さんが来たことだしね」
スキル<聴力D>のおかげで、さらに20体のゴブリンが近づいているのが分かる。
「距離としては、30メートル先か」
私は手近な高い木に登り、目視でゴブリンたちを確認すると、いつも通りにポポポーンと順番に首を飛ばした。
レベルが上がり、ものすごい数のスキルの通知が脳内に響く。
地面はゴブリンの首が転がり、血の海となったが気にせず私はステータス画面を開いた。
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名前: 蜂須 莉々菜
性別:女
年齢:22歳
種族:異世界人
レベル:23
HP:3450/3450
MP:1120/2300
筋力:345
攻撃:460
防御:115
知力:184
素早さ:230
幸運:69
レジェンドスキル
勇者G
ユニークスキル
転移F
ノーマルスキル
打撃E→B 聴力D→C 剣撃F→D 短剣術F→D 嗅覚F→E
棍棒術E 弓術C 視力E 身体強化D 風魔法F 鍛冶D
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「弓術と風魔法なんて覚えていたの!?」
まともに正面からゴブリンたちにぶつかって、遠距離攻撃なんてやられていたら……普通に死んでいたな。
ゴブリンってこんなに強いの?
まあでも、転移スキルのおかげで怪我一つなく倒すことができた。
「それにしても風魔法って気になるな。小さい頃は人並みに魔法少女に憧れていたし……ん?」
ふと、何かが風を切る音がした。私は嫌な予感がして反射的に頭を下げる。
ビンッという音と共に、私の頭のあったところにナイフが刺さっていた。
「<転移>!」
私は500メートル上空に転移した。
「やばいやばい。親玉登場ってこと!?」
私はスキル<視力>と<聴力>を使い、空から落ちながら敵を探す。
ナイフが木に刺さったということは、おそらく遮蔽物が少ないか、距離が近いところに敵はいたはず。
私のゴブリンたちから奪ったスキルでも探知できなかったということは、親玉はかなりの強さのはずだ。
もちろん、私よりもレベルが高いに違いない。
死という単語が脳裏に浮かんだが、同時に私は自然と口角があがる。
「……いた!」
敵は今までのゴブリンの3倍はあろうかという巨体。見た目は普通のゴブリンたちを大きく凶悪にした感じだ。
巨大ゴブリンの身体には立派な鉄の鎧が着用されている。さらに反り返った刃を持つ大剣を装備していた。
だが、幸いなことに巨大ゴブリン以外には魔物がいない。
巨大ゴブリンは上空にいる私に気づくと、何やら叫ぶ。すると、辺りの木々が不自然な軌道で大きく揺れた。
「命を懸ける価値はあり! <転移><転移><転移>」
ハイリスクハイリターン。私が好きな言葉の一つだ。
ここであの見るからに強そうな巨大ゴブリンを倒して経験値とスキルを奪えれば、逃亡生活もぐっと楽になるに違いない。
とりあえず、辺りに生えている木や大きな岩などを防御のために自分の前に転移させる。すると、木々がメキメキと音を立てて折れ、葉や枝が切り刻まれた。
「なるほど。風魔法持ちってことね!」
私も風魔法を持ってはいるが、使い方はまったく分からない。熟練度も巨大ゴブリンより低そうだし、今回は使わないでおこう。
風魔法は目に見えないから厄介だ。
なので、長期戦はこちらが不利と見た。
「<転移>」
木と岩で風魔法を相殺し、視界が開ける。
その瞬間、私は巨大ゴブリンの頭めがけてスキルを発動させた。
「ギャギャッ」
巨大ゴブリンは急加速した。すると、私の転移スキルをすり抜け、森へ身を隠した。
「どこだ?」
私は転移して地面に降り立つ。<聴力><視力><嗅覚><身体強化>をフル稼働させて警戒をした。
ヒュッと、また風を切る音が聞こえる。
私は地面に身体を投げ打つように転がると、鋭い銀の刃が眼前を擦り抜けた。
巨大ゴブリンの大剣は木々をなぎ倒し、その余波で突風が吹く。
私は飛ばされながらも、どうにか身体を起こした。
「……また消えたか」
巨大ゴブリンはまた森へと入った。
無敵に思えた私の転移スキルだが、ここにきて弱点が分かってしまった。
それは、目視で確認しなければ座標を指定できないことと、素早く移動すればスキルから逃れられるということだ。
巨大ゴブリンのような察知能力が高く、素早い敵は天敵といえるだろう。
そして巨大ゴブリンは知力が高い。
先ほどの動きからしても、私の弱点を完全に把握しているだろう。
「どうにか動きを封じないとな」
私は両手にナイフを構えると、再び500メートル上空へと転移する。
そして、辺りの木々を片っ端から遥か上空へと転移して巨大ゴブリンの隠れられる場所を消した。
私の残りMPは500ほど。戦闘が始まってから半分以上も消費している。
「ギャギャッ」
手近に隠れられる場所がなくなった巨大ゴブリンは叫んだ。おそらくまた風魔法を発動したんだろう。
「<転移><転移><転移><転移><転移><転移>!」
私は上空に飛ばしていた木々を転移させる。
しかし、今度は防御としてではなく、巨大ゴブリンの周りへ隙間なく転移させた。
私はいつ目に見えない風魔法が直撃するか分からない状態。
巨大ゴブリンは木々から逃れようと上へ上へと幹を伝ってジャンプしていく。
だが、私は迷いなく上空のすべての木々を巨大ゴブリンを囲むように配置させた。
「<転移>!>
はらりと私の黒い毛束が切れるのが見えたかと思えば、景色は切り替わる。
木の檻を上に抜け出し、空中にジャンプした巨大ゴブリンの前に出ると両手のナイフを強く握った。
「オラァッ」
<短剣術>のおかげか、巨大ゴブリンが大剣を振るよりも早く正確に私はナイフを目玉に突き立てた。
「ギィヤヤアアアアアッ」
<身体強化><剣撃>の威力が乗った一撃。巨大ゴブリンは闇雲に大剣を振り回しながら耳を劈くような悲鳴を上げた。
私は冷静に距離を取るように転移すると、悶え苦しむ巨大ゴブリンに今度こそ狙いを定めた。
「<転移>」
巨大ゴブリンの頭が飛び、首の断面から血が噴き出す。
そして脳内に祝音が響いた。
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▶レベルが56に上がりました。
▶おめでとうございます。
▶レベル25以下で自身とのレベル差が100以上ある魔物を単騎かつ無傷で倒したことにより、ユニークスキル<天下無双>が解放されました。
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「え、レベル差100以上あったの?」
私は思っていたよりも命を懸けた戦いをしていたらしい。