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34話 初心者冒険者と低予算商品開発


「……完全に飲み過ぎた」



 グラジオラス辺境伯と食後のティータイムを楽しんだ後、何を思ったのか様々な種類の酒を出された。


 異世界の酒なので初めて飲むものばかり。しかも高級品でタダ酒。そりゃ飲むに決まっている。


 結果、朝帰りになってしまった。



「スキルで解毒できるからいいけど、日本だったら普通に二日酔いだな」



 しかし、朝帰りに後悔はしていない。


 グラジオラス辺境伯のメイドは気遣いもできるので、帰りは女性騎士用の服をもらい、シャツにパンツスタイルのラフな格好だ。


 グラジオラス辺境伯が用意してくれた帰りの馬車を降りると、家の外でアルフがほうきを持って掃き掃除をしていた。



「あ! リリナ様、お帰りなさい」



 子犬のように元気よくアルフは私を出迎えてくれた。



「ただいま。ちょっとお酒を飲み過ぎて帰りが遅くなった。アルフはこんな朝から掃除なんて偉いな」


「でも……昨日、泥棒が入って窓ガラスを割られちゃったんです」


「泥棒が絶対的に悪いんだから気にするな。けど、泥棒には弁償もしてもらわないとな」


「泥棒なら、姉ちゃんが今騎士団に引き渡してるよ! なんか指名手配犯だったらしくて、窓ガラスは余裕で買えるぐらいの賞金がもらえそうだって」


「鴨が葱を背負って来たのか。賞金は撃退したみんなで山分けしな」



 泥棒を撃退して稼いだお金はさすがに雇用主の私が奪う訳にはいかない。


 私は部下をブラック企業で働かせるつもりはないからな。


 家の中に入ると、私はわずかに違和感を覚えた。



「なんか出かける前よりも家の中が綺麗になっている気がするが……まあ、気のせいか」



 私は水魔法と火魔法を使ってお風呂を沸かしてゆっくり入浴すると、いつもの服に着替えて商業ギルドへと向かった。


 すると大きな荷物を持ったダヴィーナが出迎えてくれた。




「あら、ハーチス様。お噂はかねがね。大変だったようですわね」


「泥棒の話? 従業員たちが頑張ってくれただけで、私は何もしていないよ」


「オホホッ。ご冗談を。オータム姉弟の成長ぶり……話題になってますわよ。ハーチス様は人を成長させるとんでもないスキルを持っていると」


「まあ、当たりかな。身内にしか恩恵はないけど」


「これはいい情報ですわ!」



 ダヴィーナは私を流れるように面談室へ連れていく。



「オークションについて色々と準備が整ってきましたの。昨日、オークション開催の案内を各商業ギルド支部ならびに取引のある貴族家に配布しましたわ。泥棒さん・・・・が来たのはその影響ですわね」



 ダヴィーナはオークションの案内広告と、会場の部屋割り案をテーブルの上に広げた。



「オークションはこちらの貴族の夜会にも使われていたイベントホールで行いたいと思いますの。豪奢ですがだだっ広い部屋なので、雰囲気を出すためにも木組みの舞台を設置する予定ですわ」



 次いでオークション会場の内装イメージの絵を取り出した。


 白を基調とした華やかなもので、チャリティーオークションの名に相応しい清廉な印象だ。


 ……出品されるのは、犯罪者たちが略奪したいわくつきの商品なんだけどね。



「指名手配犯からの戦利品の中にいくつか貴族の家宝やご家族の遺品がありましたわ。それがこの一覧ですの」


「思っていたよりも少ないな」



 貴族はアクセサリーと剣を2件だけ。


 平民は遺族が婚約指輪やら結婚指輪を5件ほど申請している。



「こういった場合ですと、討伐者にお礼をするのが慣例ですの。平民の遺族たちは自分で作った作物や衣類、お菓子なんかを持ってきましたわ。彼らの感謝の気持ちですし、受け取ってくださいませね」


「分かった。家に送っておいて」


「問題は貴族ですの。彼らは面子もありますし、半端なお礼などしたら社交界での笑いものですわ。それなので、余程貴重な家宝でないかぎり名乗り出ませんの」


「でも今回は2件もあるんだろ。貴族様たちは私にどんなお礼をくれるのかな」



 ニヤニヤとダヴィーナと一緒に私は笑みを浮かべる。



「1件目の貴族は帝都の別荘の所有権を譲ると言っていますわ。規模は小さめですが、誰もが羨む一等地ですわ! 住むのも売るのも大きな利益にしかなりませんわね」


「ほほう。して、2件目はどうかな」


「こちらはシンプルに現金ですわ! 提示されたのは金貨5000枚ですの」


「最高じゃないか、ダヴィーナ君。良い仲介をしてくれた褒美に商業ギルドへ金貨1000枚を寄付しよう」


「ぐんふっふ。ありがたき幸せですわぁ」



 利益がおいしすぎて、指名手配犯狩りが止められなくなりそう。 



「そういえば、オークション会場で場所が余りましたの。ハーチス商会として、何かお店を開きます? なければこちらで当日のテナントとして貸し出そうと思うのですけど……」



 提示されたのは、同じ敷地内にある別邸の一つだった。オークション会場より地味な作りだがお店を開くのには問題はない。



「当日の客層ってどうなりそう?」


「貴族を招待してはいますが、実際に来るのは一握りでしょう。基本的には商人や地元の平民、観光客がほとんどですわね」


「なるほど。高級な物は逆に売れないか」



 私のスキルを使えば、いくつか商品を作れそうだな。



「お店やってみるよ。オークションの利益は寄付するけど、店で販売した普通の商品の利益は私のものだしね」


「ハーチス様の手腕を楽しみにしていますわ!」



 私は商業ギルドを出ると、市場でガラス瓶をいくつか買って冒険者ギルドに来た。



「ダグさん、ラザロ! ちょっと話があるんだけど」


「Aランク冒険者の首狩りハーチス様じゃねーか」


「マスカーニ支部始まって以来の最短記録らしいッスよ!」


「ありがとう」



 私は彼らが座っている席に腰を下ろした。



「突然なんだけどさ。冒険者をやっていてあったら便利だなってものない? 戦闘の補助道具とかでさ」


「回復ポーションを持ち歩くのは冒険者の嗜みではあるが……」


「はい! 魔物を一撃で倒す爆弾が欲しいッス」


「お前それ……森の中じゃ使えねーし、自分たちが怪我をするかもしれねーから持ち運べないぞ」


「でも、群れで行動する魔物と遭遇した時とか戦いの安全性が増すッスよ。面倒な雑魚狩りとかしなくて済むし」



 ダグとラザロの話を聞いて、私は一つ思いつく。



「たとえば魔物にしか効かない麻痺剤とかあったらどう?」


「それいいッスね。群れてる魔物は一匹が攻撃されていると、残りが逃げ出したりするッスから、素材回収系の魔物狩りとかで重宝しそうッス」


「弓や風魔法を使えば特定の魔物にだけ散布できそうだな」


「割と好印象なんだ。だったら、試しに使ってみてよ」



 私はテーブルの下で『毒生成』を発動させると、買ってきた瓶に魔物にしか効かない麻痺毒を入れた。


 それをダグとラザロに一本ずつ手渡した。



「使ったら感想を聞かせて」








    ☆






 次の日。冒険者ギルドに行くと、ダグとラザロに取り囲まれた。



「おい、姉ちゃん。麻痺剤はいくらで売ってくれるんだ!?」


「依頼が爆速で終わったッス! 姉御、うちのリーダーが値段によっては継続購入させてほしいそうッス」



 こんな早々に結果がでるなんて思いもしなかった。



「冒険者的には売れる商品なんだな」


「効き目がえぐいッス! 魔物狩りが効率的になりましたし、もしもヘルスコーピオンのような強力な魔物に遭遇しても生き残る確率が段違いッス」


「冒険者だけでなく、街の外で働く奴らのお守りにもなるんじゃないか? 人間には効かないから安全性が高いし、ひょっとすると騎士団でも需要があるかもしれない」


「一瓶銀貨1枚だったら買う?」



 ガラス瓶が大銅貨1枚で日本円でだいたい1000円ほど。麻痺毒は私のスキルで元手がかからないし、銀貨1枚約5000円で販売すればそこそこの利益になる。


 他にもスキル<毒魔法><薬師>なんかで作れる物を売れば――――



「姉ちゃん……すげぇ悪い顔してるぞ」



 ダグは若干引き気味だ。しかし、私はそれを無視する。



「ねえ、ダグさん。この街でガラス瓶を大量発注するにはどうしたらいい?」



 こうすれば市場でガラス瓶を買うよりも安く手に入るだろう。



「工房で発注するしかないが、基本的には武具なんかを作っているからな。予約もなしにガラス瓶を作ってくれるかどうか……下手な工房は姉ちゃんには紹介できんしな……」


「ボビーさんのところなら受けてくれるんじゃないッスか。腕は確かだし」


「……まあ、短期的な依頼なら大丈夫か」



 ダグは紙にサラサラと地図を描く。



「俺が紹介したと言えば無下に断られはしないだろ」


「ありがとう。さっそく行ってみるよ」



 私は地図を見て少し驚く。


 紹介された工房……私の家の割と近くなんだが。





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