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32話 初心者冒険者と招待状


「オークジェネラルは! Aランクパーティーで! やっと倒せるんですよ!」


「確かにうちの子どもたちとタヌキじゃまだ倒せなかったな。でも、Aランクパーティーは言い過ぎなんじゃない? 普通の剣と槍で倒せたし」


「オークジェネラルは! 驚異的な再生力のおかげで! 何度も立ち上がって! 痛みをものともせず! 襲い掛かってくるんです!」


「腹に大穴開けたらさすがに痛そうにしてたけど。それに全身バラバラ死体にすれば、さすがに再生しなかったぞ」


「ああああああ!」



 エイミーは髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜながら頭を抱えた。そして十秒ほど唸り声をあげると、すんと表情が無になる。



「……もう考えるのはやめます。通常の魔物とは違う変異種に関しては、発見もしくは討伐をしたら関所近くの騎士団と冒険者ギルドに報告をお願いします。ハーチス様は強すぎて変異種が分からないようなので、こちらの冊子を無料で贈呈致します」


「タダでもらえるのか。ラッキー」



 私はエイミーから辞書のような分厚い冊子を受け取った。読むかは分からないが、もらえる物はもらっておこう。



「オークジェネラルの素材はこちらで解体しますか?」


「デカいオークって感じだったから、うちのタヌキが教本を見ながら解体したよ。肉は高級品でおいしいらしいから、我が家の晩御飯になる予定。牙と睾丸は買い取ってくれる? 結構高く売れるんでしょ」



 商業ギルドはオークションの準備で忙しいだろうし、今は冒険者ギルドに丸投げした方が良さそうだ。



「牙は強力な武器の材料になりますし、睾丸に関してはお年を召した金持ちたちがこぞって値段を吊り上げるでしょうね。買取金額は時価になりますし、査定はギルドマスターにお願いすることにします」


「よろしくねー」



 私がひらひらと手を振ると、エイミーは深く溜息を吐いた。




「……それではハーチス様。諸々の手続きがありますので、2階へどうぞ」




 そう言われて案内されたのは、広めの会議室のような部屋だった。



「やあやあ、こんな場所に案内してしまってごめんね。素材を置くスペースがなくてね」



 中にいたのはトーリだった。彼は端に置かれた椅子に座っている。


 部屋の中央には、解体後に汚れを落としただろう素材たちがテーブルの上に並べられていた。



「冒険者ギルド総出で買取先を探したよ。危険な物も多かったし、大変だったな」


「その分儲けたんでしょ」



 私はトーリの向かいに座った。



「バジリスクの素材はアシュガ帝国がすべて買い取りを希望したよ。強力な毒とかがあるし、他国には渡せなかったんだろうね。ヘルスコーピオンの皮に関しては数か国の有名商会が買い取りを希望したよ。久しぶりに市場に出た素材だから、かなりの額を提示されたよ」




 トーリは細かな素材の買取明細を私に手渡した。



「オークジェネラルの素材っていくらで買い取ってくれる?」



 私はテーブルの上にオークジェネラルの牙と瓶詰めにした睾丸を出した。



「さすがリリナ君。オークジェネラル程度だったら、怪我一つないんだね」



 トーリは素材を検分すると、計算機を叩いた。




「バジリスクが金貨5230枚、ヘルスコーピオンが金貨3000枚、オークジェネラルが金貨2580枚、合計金貨10810枚だね」


「うひょぉぉおおお!」



 私は頬を朱に染めながら飛び跳ねた。



「喜び方がちょっとキモいな。……指名手配犯100人分の賞金が金貨43000枚だから、すべて合わせて金貨53810枚だ。これだけで危険な冒険者なんて引退するぐらいのお金持ちだね」



 トーリはテーブルの上に大金貨の入った袋を置いた。



「愛しているぞ、私のお金!」



 日本円で約5億3800万円。なんて最高な眺めなんだろうか。


 じっくり大金貨ちゃんを眺めた後、私はそれらをアイテムボックスに閉まった。


 ステータスを確認すると、私の総資産が557,584,067ルネロに増えている。


 この心の奥底から湧き上がってくる喜びを表現したい。そう、今から派手に踊りたい気分だ!



「余韻に浸っているところ申し訳ないんだけど。冒険者ギルドとしては次が本命なんだよね」



 トーリはそう言うと、翡翠色のタグを取り出した。



「Aランク冒険者のネームタグだよ。希少鉱物のオリハルコンで作られているから、無くしたり、盗まれたりしないようにね」


「はいはい」



 私は鉄製のネームタグを返却し、オリハルコン製のネームタグを受け取った。



「新しい高位冒険者の誕生だ。嬉しいなー」



 トーリはパチパチと拍手をすると、私に高級そうな手紙を渡した。



「早速なんだけど、リリナ君に指名依頼というか要請だよ。グラジオラス辺境伯から夕食の誘いだ。私はついていけないんだけど……行くかい?」


「グラジオラス辺境伯ってまともな人? 権力者って自分に酔っている人やケチなヤツが一定数いるし」


「グラジオラス辺境伯はまともだね。あの血濡れの猜疑帝からの信頼も厚いし」


「血濡れの猜疑帝?」


「今のアシュガ帝国皇帝のことだよ」



 トーリ曰く、アシュガ帝国の今の皇帝は母と同母腹の妹を殺され、それでも苛烈な皇位継承争いに勝った実力者らしい。


 他に生き残った兄弟はおろか、王家の血の入った叔父すらいないという。


 何やらスキルにより人の嘘が見抜けるらしく、皇帝に重用されるのは至難の業なのだとか。娶った妃たちすら信頼していないらしい。


 そんな中、グラジオラス辺境伯は皇帝からかなりの信頼を得ているとのこと。



「グラジオラス辺境伯は皇帝の叔父であり、皇位継承争いでは劣勢な頃から惜しみない支援をして皇帝の唯一の味方になってくれたからね。政治には疎いけど、妹大好きっ子でね。家族には愛情深い可愛いヤツなんだよ」


「かなりの高評価だな」


「まあ、赤ん坊の頃から知っているからね」



 そうだった。トーリはこう見えてかなりのおじいちゃんだったわ。



「まともな権力者なら、コネをつくりに行きますか」


「急なお願いだし、普段通りの服装でいいって」



 ……普段通りの服装でいい訳ないだろ。そんな建前を信じるのは社会に出る前の話だ。



 私はニコニコと笑うトーリをジトッとした目で見つめた。






   ☆





 私は商業ギルドで無理を言ってドレスとアクセサリーをレンタルし、ちょっと高めの馬車をチャーターした。


 まともな権力者に媚びるためならば、この程度の出費は痛くない。



「到着しました」



 御者に促され、馬車から降りるとそこは海外セレブが住むような豪邸だった。手入れの行き届いた庭が広がり、一目でその財力と権力を推し量ることができる。



「よく来たな。私がセザール・グラジオラスだ。辺境伯をやっている」



 

 

 年の頃は50代ぐらいだろうか。2メートルはある巨体に筋骨隆々の身体。短く切り揃えられた銀髪に、特徴的な赤い目。怜悧な印象を受ける整った顔立ちに、どう見ても睨んでいるようにしか見えない鋭い目つき。


 身に纏った軍服は黒色で、胸筋が弾けそうだ。腰に差した剣はかなりの業物で、見た目よりも性能を意識していると見える。



 妹大好きっ子で家族には愛情深い可愛いヤツって……いったい、どこにいるんだ?



 グラジオラス辺境伯は私を見定めるように見下ろしている。その姿はさながら極悪非道なマフィアボスか、血に飢えた歴戦の軍人そのもの。



 ……普通の子どもなら泣いているな。



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