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28話 初心者冒険者と買取交渉



「エイミーたちは私をただの平凡な地方ギルドマスターだと思っているから、年をとった異世界人なのは内緒にしてね?」


「私が勇者だということを黙ってくれるなら」


「分かったよ。グラジオラス辺境伯にも内緒にするから。残りの取引の件はエイミーとダヴィーナ君と話してね。それと何か悩みがあるのなら、異世界人の先輩として相談に乗るから頼ってよ」



 トーリが部屋から出て行くのを確認すると、私は出されていたお茶を一口飲む。


 ……魔王を倒せだとか、世界を救えだとか、トーリはロベリア王国の連中と違って何も私に要求をしてこなかった。精々、世界の秘密の一端を開示した程度。



「私がどう動こうとも、トーリの望んだ結果になるということか?」



 トーリの言う通り、私はいずれ必ず侵略者アグレッサーとかいう面倒な奴らと敵対することになるのだろう。


 幸いなことに強くなることと、権力を手にすることは私の行動目標に含まれる。特に行動を改める必要は今のところないみたいだ。



「けれど、話を聞くに侵略者は単体ではなく複数。組織だって行動することもあるということは、私だけ強くなっても意味がないな」



 私に従う、私のための組織が必要となるだろう。


 

「具体的にどうやって作るのかは追々考えるか」



 今の私は初心者冒険者でしかない。一歩ずつ、焦らず金儲けをしていくか。



「リリナ・ハーチス様ぁぁああ!」


「うるさいわよ、ダヴィーナ」



 扉が大きく開かれ、エイミーとダヴィーナが入ってきた。ふたりは私の向かいのソファに座ると、ギラギラとした目でこちらを見てくる。


 私は相手のペースに乗せられる前に口を開く。



「買取交渉の件だけど、私が持っているバジリスクとヘルスコーピオンの素材……というか死体は冒険者ギルドに買取をお願いします」


「えええええ!?」



 悲しみの表情を浮かべるダヴィーナを横目に、エイミーがにっこりと微笑んだ。




「ハーチス様は何か買取の際にご要望などありますか? ヘルスコーピオンの皮は丈夫なので、高位冒険者や騎士の防具や靴、それにカバンなどに使われます。素材を直接店に持っていけば安く作れると思いますが」


「ではヘルスコーピオンの皮を半分取りおいてください。それと、解体作業の現場を見学したいんですけど、大丈夫ですか?」


「かしこまりました。今回は希少素材を提供していただくので、解体費用は冒険者ギルド持ちとなります」


「分かりました」



 せっかくシロタがスキル<魔物解体>を持っているのだから、勉強の機会を逃したくはない。



「ダヴィーナさん。指名手配犯たちから巻き上げた戦利品なんですが、残念ながら商業ギルドに下ろすつもりはありません」


「嘘ですわぁぁぁああ」



 ダヴィーナは頭を抱えて絶叫した。



「代わりにオークションの運営でも手伝ってもらおうかと」


「オークションですの!?」



 ダヴィーナは金の匂いを嗅ぎつけたのか、すぐに立ち直った。



「私はこれから自分の商会を作ります。その宣伝も兼ねて、戦利品のオークションを開催したいと思います。私はこの国の人間ではないので、商業ギルドにはオークションの運営などを手伝ってもらえたらと。もちろん、売り上げの何割かを渡す契約を結ばせてもらいます」


「貴族や商人たちの馬車を襲いまくっていた悪名高い指名手配犯たちの戦利品と言えば……オホホホッ、とんでもない価値がありますわぁ! 各地から観光客が来まくりの儲かりフィーバーフィーバーですわぁあああ!」



 ダヴィーナのこの様子だと、私がオークションを開催できないということはなさそうだ。



「名目はチャリティーオークションにするつもりです」



 指名手配犯たちから奪った金貨や賞金などのおかげで、すでにかなりの額を儲けている。


 それならば、アクセサリーや美術品の類で得た利益は未来の投資に回そう。



「商業ギルドの取り分と経費を除いた売り上げを、孤児院への寄付と貧しい子どもへの奨学金に使おうと思います」



 孤児院への寄付で名声を買い、奨学金で恩を売りつつ未来の人材を買う。好感度は買える時に買っとけというのが、私の社会人としてのポリシーでもある。



「それは良いですわ! 犯罪者からの戦利品でお金を儲けたとなると、拒否反応を示す人はおりますので」


「戦利品の中に、家宝だとか遺品などがあったときは家族に返してください。面倒ごとは嫌いなので」


「それならば、騎士団に届けてある紛失届を見て確認しましょう。本人たちに所有権がある場合のみ返却しますわ」



 ダヴィーナは物凄い勢いでメモを取っていく。



「オークション会場は、この街の商業ギルドが保有している中で一番広い邸宅を利用したいと思っておりますの。元々は大貴族の別荘でしたので馬車の乗り入れもできますし、部屋数も豊富。繁華街も近く盛り上がりやすい立地をしていますわ」


「そこでお願いします。開催はいつぐらいでできますか?」


「オークションの宣伝と街が儲ける準備を含めまして、最低でも1か月は準備期間が欲しいですわ」


「では1か月後で」


「かしこまりぃですわ! それでは、わたくしは早急にオークションの準備に取り掛かりますので、お先に失礼させていただきますわ! ハーチス様、商業ギルド登録の手続きをお待ちしておりますね」



 ダヴィーナは嵐のように去って行った。


 まだ商業ギルドの取り分の話はしていないけど……まあ、後日でいいか。



「騒々しくて申し訳ございません」


「別に気にしていませんよ。仕事熱心でありがたいぐらいです」 



 エイミーは頭を抱えていた。



「あの様子ですと、戦利品の鑑定まで考えが及んでいなさそうです。よろしければ、冒険者ギルドの方で鑑定をしますが……」


「鑑定料がかかるなら自分でやりたいですね」


「オークションを開催するとなると、商品の信用のためにも冒険者ギルドか商業ギルドが鑑定の証明をした方がいいですよ。ちなみにハーチス様の<鑑定>スキルのランクは?」


「Cですね」


「なるほど。冒険者ギルドのベテラン鑑定専門職員並みですね」



 エイミーは考えると、私に微笑んだ。



「宝飾品の鑑定に関しましては、実際よりも低い価値を提示して儲けようとするギルドがあるんです。うちの冒険者ギルドはそんなことはないんですけど、万が一のためにハーチス様も戦利品の鑑定を手伝っていただけると助かります。もちろん、鑑定費用は相場よりも格安で承りますよ」


「いいけど、裏がありそう」


「希少な素材を買い取らせてもらうお礼と、高ランクの依頼を受けて欲しいなという下心です」


「抜け目ないな」



 さすがはトーリが取引を一任するだけはある。



「明日の昼頃に、ハーチス様の家近くの空き地でバジリスクとヘルスコーピオンの解体を行いたいと思います」


「分かりました」



 さてさて、商会設立に向けてやることがいっぱいだ。






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