表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/58

27話 初心者冒険者と統括グランドマスター

「ちなみにリリナ君は日本のどこ出身だい? 私は静岡県なんだけど」


「静岡? 私は白沢しろさわ県だけど」


「どちらも聞いたことないな」


「それはこっちのセリフ」



 いつの間にか敬語も取れ、私はトーリを警戒する。



「異世界人がここで生き残る秘訣はね。適用能力――――と、みせかけて精神がイカレていることだよ」


「はぁ」


「リリナ君は日本から来たばかりだというのに、犯罪者とはいえ人を殺して平気そうだよね。かと言って、犯罪被害者たちに同情し正義感からの行動とも思えない。誘拐してきたこの世界の住人に復讐心がある訳でもない。うん。私と同じ側の人間で嬉しいよ」


「そういうのどうでもいいんで。色々と説明して」



 トーリは足を組み、何もかも見透かすような鋭い目で私を見つめる。



「マスカーニ支部ギルドマスター改め、冒険者ギルドの生みの親にして統括グランドマスター綾霞あやがすみ桃里とうりだ。リリナ君とは違う日本・・・・出身の異世界人だよ」


「冒険者ギルドの生みの親がこんなに若いなんてね」



 冒険者ギルドと商業ギルドは世界中にあると聞いたが、そんな巨大組織を二十代で作れるのだろうか。



「もちろん、見た目通りの年齢じゃないさ。年齢は1000を超えたところから数えていないんだけどね」


「……スキルの力?」


「そうさ。まあ、私の場合は『勇者』に押し付けられたレジェンドスキルなんだけどね」



 私は表情を変えずにスキル<鑑定>を使用した。





*********



▶<鑑定>できませんでした。



*********





「リリナ君、<鑑定>のスキルでも使った? さすがに私のステータスは見せられないよ」



 焦りも怒りもなく穏やかに笑うトーリを見て、1000年生きているというのは嘘ではないと思った。


 そもそもゲームみたいに『スキル』なんていうなんでもありな能力があるこの世界ならば、不可能な事象こそないんじゃなかろうか。



「……違う日本出身ってどういうこと?」



 相手は確実に現時点の私よりも格上の存在だ。


 私は腹をくくり、トーリと対話することにした。



「リリナ君はさ、西暦何年にここに来た? 私は2025年なんだけど」


暦2025年だね」


「なるほどねぇ。私の住んでいた日本国は、議会制民主主義を取り入れていて……衆議院と参議院があって、選挙で選ばれた政治家が国を動かしていたんだ。リリナ君のところはもしかして、華族制が残っていたりする?」


「私の住んでいた日本皇国・・・・は、民主財閥制を取り入れていた。国民に選挙で選ばれた政治家からなる衆議院と、日本の財閥の上位100から任命された人間からなる財閥院で政治を動かしているな」



 私がそう言うと、トーリは目を見開いた。



「最近の異世界人は華族制だったんだけど……また、世界が滅びたのか」


「世界が滅びる?」



 聞き捨てならない単語に私は眉間に皺を寄せる。



「リリナ君、パラレルワールドって知っている?」


「過去や未来が分岐した世界のこと?」


「そうそう。私とリリナ君がいた世界は元々は同じ世界だけど、歴史のどこかで枝分かれしたパラレルワールドなんだ。だから同じ日本でも、歴史が少し違うんだ」



 トーリは何の感情も載っていない双眸で私を見据える。



「私の生まれ故郷の日本は世界ごととっくに滅びたんだ。だから、私と同じ『日本』から勇者は召喚されない」


「そうなると、トーリの後に召喚された勇者たちはパラレルワールドから来ている。さっき言っていた華族制の世界も滅びたのか?」


「そうみたいだね。面白いことに、2030年を超えた人間が勇者召喚されることはない。始めに2025年に生きていた人間が召喚され、その後召喚された人間の話によると年々地球の状況が悪くなり、滅びを迎えた2030年以降は誰も召喚されずに別のパラレルワールドの2025年に移る。それの繰り返しさ」


「どうして地球は滅びたの?」


侵略者アグレッサーと呼ばれる存在のせいだ。彼らは世界を食料として喰う害虫だ。パラレルワールドとは違う、別の異世界も滅ぼされたらしいね」



 情報源とか聞いても教えてはくれないだろうな。



「それじゃあ、日本はもうすぐ滅ぶのか」


「ここも安全じゃないよ。侵略者はこの世界にもいるからね。勇者召喚ができるということは、地球世界とこの世界に繋がりがあるということなんだから」


「……なぜ私にそんな話をするの?」



 どう考えてもこの世界の住人たちが知っている一般常識ではないだろう。



「リリナ君はロベリア王国でエリーゼ姫の勇者召喚に巻き込まれた女性だよね。そして、私の長年の経験から思うに、君はただの巻き込まれた人なんじゃなくて『勇者』なんじゃないかな。強いし」



 世界各地に支店を持つ冒険者ギルドのトップだ。信じられないほど緻密な情報網を持っているに違いない。


 下手に否定やごまかしをしないほうがいいな。



「そうだね。スキル<勇者>を持っている」


「レベルアップのときの声は男性かい? それとも中性的な声?」


「若い女性の声だけど」


「これは珍しい。リリナ君は繁栄と自由の神の姫に選ばれた勇者なのか。あの神は選り好みするから、なかなか姫も勇者も現れないんだけどね」


「トーリは私と違うのか?」


「私はレベルアップのときは男性の声がするね。恋愛と誓約の神だとされている。ちなみに私は本当に勇者召喚に巻き込まれただけの一般人で、友人がこの世界の『姫』に選ばれた『勇者』だったんだ」



 トーリは懐かしむように目を細めた。



「勇者の役目は世界を救うこと。私の友人は世界を守るために何体もの侵略者を倒した。その果てに姫と恋仲になって、元の世界へ一緒に召喚されていた彼の妹を戻し……精神を崩壊させた」


「どうして?」


「幸せを願って日本に戻した妹、優しかった両親、仲の良かった友人、お世話になった人々が死に絶え、心の拠り所だった故郷が跡形もなく滅びたことを、後の勇者召喚された者たちから知ってしまったからだよ。勇者に選ばれるような人間は心優しく、正義感に溢れている人格者が多いからね。厳しい現実に絶望してしまったのさ」



 トーリの視線には、君は違うけどという含みを感じた。



「精神を崩壊させた私の友人はね。各国の勇者召喚の陣や関連書籍を破壊しまくったんだ。おかげで10年後には、ほとんどの国で勇者召喚の知識は途絶えた。勇者は基本的にこの世界の人間から選ばれるようになり、友人は私に自分のレジェンドスキルと侵略者への復讐を託して自害した。召喚された勇者の末路なんてだいたいこんなものさ」



 トーリは溜息を吐いた。



「異世界人の勇者の方が、この世界で選ばれた勇者より強くなりやすいっていうのに迷惑な友人だよ。おかげで私は冒険者ギルドを作って、この世界の人間の自力を上げる羽目になった。侵略者に抵抗するためには、力がいるからね」


「侵略者っていったいなんたんだ?」


「私たちが知っている言葉で簡単に表すと……寄生型エイリアンかな。現地の知的生命体に取り付き、操作して世界を滅ぼす行動をする。寄生型だから、見つけるのが大変でね。組織だって行動することもあるから、世界的な大事件の裏に侵略者たちが関わっていることを後から知ったりするよ」


「侵略者ね。……金儲けの邪魔だな」



 総資産1兆円を超えて私が高笑いしながら老いて死ぬまで、世界は存続してもらわなくては困る。



「必ずリリナ君の前に侵略者は現れるはずだよ。面倒ごとに関わる前に、君の『姫』を見つけて強くなった方がいい。武力だけなく、権力も必要だ」


「私の『姫』ねぇ。心当たりある?」


「リリナ君にないなら、私にもないさ。この世界で生まれた姫であることは間違いないだろうけど」



 本当にどこの姫だ。さっさと現れろ。




「とりあえず、リリナ君は来週までに指名手配犯を捕まえた実績をゴリ押して、冒険者ランクをAに上げるから。色々と頑張ってね。あと、サンドアームとバジリスクの素材は冒険者ギルドに下ろして欲しいな」


「……最初からそれが目的だったんじゃないだろうな」


「そんなことないよ」



 見た目と違い、老獪なトーリに辟易する。


 私の勘が彼との付き合いは長くなりそうだと警告した。






トーリは勇者だった友人の妹に片思いしていました。

彼女の幸せを願って日本へ送り出したのは、トーリも同じです。



面白いと思っていただけましたら、評価とブックマークをお願い致します。

作者のモチベーションが上がります!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ