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25話 誰でも一週間で冒険者ランクをAに上げる方法

 翌朝、私は早速冒険者ギルドに来ていた。


 仕事のできるベテランであろう受付嬢エイミーに、手っ取り早く冒険者ランクを上げる方法を聞きに来ていた。



「簡単に冒険者ランクを上げる方法はありません」


「そこをなんとか! たとえばそう、ベテラン冒険者と手合わせして適切なランクにあてがうとか」


「手合わせをして怪我をしたら、その治療費は誰が持つことになると思っているんですか」



 呆れた目をしたエイミーに私はそっと耳打ちをする。



「たぶん私は結構強いと思う。ゴブリンキングとバジリスクとサンドアームを倒せるぐらいには」


「はいはい。20代になってから冒険者登録をした人は自分を大きく見せたがるんです。自分より若い人たちの方が高いランクだからといって焦る必要はないですよ。身の丈に合った成長をしないと死にますからね。ギルドでは、冒険者の事情に適した細やかなな講習を無料で行っていますので、安心してください」



 ……これはよくいる面倒な冒険者だと思われているな。お節介わからせおじさんを倒してさえいれば、強さを誇示してこんなのことにはならなかったのに!



 私はエイミーから、『冒険者のランクアップ制度』と『大人になってから冒険者になった方へ』というご丁寧な資料を受け取った。



「やってられないでしょ」



 冒険者ギルド内に併設された酒場でビールを頼むと、私は席でグイッと飲み干して項垂れた。



「GランクからFランクに上がるには、依頼を30回連続で成功させるって……」



 掲示板に貼られているGランクの依頼は薬草摘みや配達仕事など簡単なものだが、時間はかかりそうなものばかりだ。



「……一週間でも無理だな」


「よう、姉ちゃん。今日は随分とやさぐれているじゃねーか」



 現れたのは、ベテラン冒険者のダグだ。



「改めて社会の厳しさを再認識していたところ」


「そりゃ当たり前だ!」



 ワハハと大口で笑うダグを私は睨みつける。



「仕事に行かなくていいの? 条件のいい依頼を取られちゃうよ」


「仕事をした次の日は休むと決めているんだ。冒険者ギルドに来たのは、姉ちゃんに会いたかったからだ」


「私に?」




 そんなに仲が良くはなかったと思うけれど。



 私は小首を傾げた。



「ミタメルの弟を治療してくれたそうじゃないか。本当にありがとう」


「たまたま私が治療薬を作るスキルを持っていただけだよ」



 ミタメルたちと付き合いが長い訳でも身内でもないのに、急に出てきた余所者に頭を下げるなんて、本当にいい人だな。



「俺はここマスカーニの街では顔が利くし、グラジオラス領内でも冒険者として名が通っている。何かあれば力になるぞ」


「それなら力になってもらおうかな」


「遠慮しないのはいいことだぞ!」



 嬉しそうなダグに私はウィンクをする。



「たとえ社交辞令だろうと、言質をとったからには無理やりいう事をきかせ――――じゃなくて相談に乗ってもらったけどね」



 私はエイミーからもらった資料をダグに見せた。



「この資料の通りに依頼をこなしていったら、どのくらいでAランクになれる?」


「そうだな……最速で3年ってところじゃないか。条件のいい依頼ばかりをすべて成功させることが前提だが」



 依頼に関しては時期や事情が絡んでくる。こちらの都合通りとはならないだろう。



「ベテラン冒険者の知識でなんとかならない? 一週間でAランク冒険者になる裏ワザとか教えてよ」


「そんなものがあれば俺は今頃Aランク冒険者になっているぞ」


「可能性すらないの?」



 私がジトッとした目で問いかけると、ダグは額に手を当てながら溜息を吐いた。



「あることにはある。絶対に無理だが……理論上は可能だ……絶対に無理だが」


「無理無理言い過ぎでしょ。いいから教えてよ」


「……姉ちゃん、家族はいるか? とても危険な方法だから家族がいるヤツには言えない」


「いないね」



 父親はとっくに病気で死んでいるし、親戚には会ったことすらない。母親はたぶん生きているけど――――私のことを捨てたから、縁切りしたと考えていい。


 まあ、そもそもここは異世界だから家族とか関係ないんだけど。



「ミタメルたちに危険が迫ったら……」


「大丈夫だよ。ミタメルも弟のアルフもダグが思っている以上に強いし、私が強くさせるから」


「……分かった。まあ、聞けば無理だと分かるだろう。他の奴らには言うなよ。馬鹿が実行したら困る」



 ダグは念押しすると、他の冒険者たちに聞こえないように私へ耳打ちした。






    ☆








 ダグから冒険者ランクを上げる方法を聞いた数時間後には、人の文明から離れた森に私は再び立っていた。


 シロタとミタメルには一週間家を離れることを伝えている。当面の生活資金と、アルフの魔力抑制毒を多めに置いてきた。



「誰でも一週間で冒険者ランクをAに上げる方法を実行しようか!」



 私の手には地図と、似顔絵が描かれた赤い紙――――犯罪者の指名手配書が数十枚。


 ダグの言っていた理論上一週間でAランク冒険者になる方法は、言葉にするだけなら簡単だ。アシュガ帝国内の指名手配犯を捕まえて捕まえて捕まえまくること。


 指名手配犯を捕まえることは、知能が高い分魔物を狩るよりも難しく危険だ。それ故、冒険者ギルドでは指名手配犯を捕まえると、通常依頼をこなす何倍も実力を評価される。


 さらに指名手配犯を捕まえるということは治安を守ることに繋がる。国からの評価も良くなり、高ランク冒険者へ推薦されやすくなるらしい。



 この辺りはダグがベテラン冒険者だからこそ、周りの指名手配犯を捕まえた冒険者パーティーを見てギルドの基準を確信したそうだ。



 まあ、犯罪者たちのお仲間からの報復行為がある場合があるので、ダグ本人は指名手配犯を捕まえるのは割に合わないと言っていた。



「さてさて、獲物はどこかなー」



 代表的な指名手配犯といえば、盗賊である。



 盗賊は群れで行動するから、所属する全員が指名手配犯。なので一回の襲撃でかなりの実績数を稼げる。しかも、縄張りや狩場が決まっているから居場所を推測しやすい。


 私にはスキル<転移><視力><聴力><直感>があるので、おおよその場所さえ分かれば指名手配犯を見つけることは容易い。



「ついでにスキルとお宝も奪っておきますか」



 盗賊の所有している盗品は、捕まえた人に使用権が移るらしい。この間の幌馬車の旅で得た戦利品と一緒に売って小遣い稼ぎをしたい。


 ちなみに指名手配犯を捕まえる時の生死は問われない。


 指名手配書に書かれている罪状は、強盗殺人、婦女暴行、人身売買、詐欺、放火などなどと犯罪のオンパレードなので手加減する必要もないだろう。



「犯罪者同士で情報共有でもされて逃げられると面倒だし、この一週間はノンストップで狩らないとな!」



 私はスキル<視力>でお目当ての盗賊団の根城を見つけると、御馳走を前にした肉食獣のような笑みを浮かべる。



 


 ――――結局、私が一週間で捕まえた指名手配犯は23人で首が77個。切りよく実績数100となった。



ダグの冒険者ランクはBです。もちろんまっとうにランクを上げてます。

次回は莉々菜がいない一週間の話を2本ぐらい書きます。エイミーとミタメルかシロタ視点かな。


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