24話 初心者冒険者とオータム姉弟
「アルフ! 今、魔力抑制剤を……」
ミタメルは私があげた魔力抑制剤を取り出し、弟のアルフに飲ませた。しかし、一向に良くならない。
「どうして……なんで……」
ミタメルは涙を流し、アルフの手を握ることしかできない。
私は魔力抑制剤を買った時に見た<鑑定>の結果を思い出す。
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魔力抑制剤
飲むと10000MP減らす。24時間経過しないと次に同じものを飲んでも効果がでない。
副作用に頭痛・熱・倦怠感・内臓機能の低下がある。
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生存率2割以下というのは本当のようだ。
身体機能が未熟で魔力回復が多い子どもは、この薬だとすぐに死んでしまうだろう。
「本当は治験とかやってからやりたかったんだけど」
「……ご主人様?」
私はアルフに近づくと、口元に指先を添える。
バジリスクから奪った<毒魔法>の中には、ビジネスに有用そうな魔法があった。バジリスクはひたすら強力な猛毒を作っていたが、私は違う。
……脳内に魔法の効果をイメージ、魔力を指先に集中。
「毒生成」
たらりと指先から薄水色の液体が垂れる。この魔法で私はオリジナルの毒を作った。
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魔力抑制毒
飲むと24時間MPが30%より増えなくなる。
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流通している魔力抑制剤が粗悪品だったからか、毒だからこそ薬ほどに生成の難易度が高くなかったのか、そもそも毒でマイナス要素しかないからか、魔力抑制剤のような副作用はない。
しかも材料費なし。コスパ最強。
「ご主人様、アルフくんの顔色が良くなっていますよ! 熱も下がっています」
シロタが肉球をアルフの頬に当てながら言った。
「ぶっつけ本番だったけど効いたみたいだな」
「あの……リリナ様……」
「これからは病気を気にしなくていいよ」
「本当に……本当にありがとうござます」
ミタメルが私の手を握った瞬間、脳内に福音が響く。
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▶蜂須莉々菜に畏怖・敬愛・思慕を持つ人数が30名を超えました。
▶スキル<カリスマ>の熟練度がG→Fになりました。
▶蜂須莉々菜の言動に説得力と威圧が付与されるようになります。信者は99%蜂須莉々菜の命令を聞くようになりました。
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……詐欺師かカルトかな。
スキル<カリスマ>の効果にちょっと引きつつ、私はすぅすぅと眠りにつくアルフを見た。
一応、確認はしておくか。
私は<鑑定>を発動させる。
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名前:アルフ
種族:人族
ユニークスキル
結界魔法E アイテムボックス
ノーマルスキル
魔弾S 計算G
<結界魔法E>
様々な結界を展開できる。結界の種類、範囲、強度はランクに比例する。魔力消費が多い。自分の攻撃は結界に弾かれない。
<魔弾S>
魔力を銃弾のように射出する。一度に発射できる魔弾の数はランクに比例する。
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あー、うん。無敵戦車かな? 姉に続き弟も逸材すぎる。
☆
アルフに魔力抑制毒を飲ませた後、彼を<転移>で丁重に家へと運び、私とシロタとミタメルは夕飯を食べていた。
ミタメルが作ったパンと具沢山スープと魔物肉のソテーは<料理A>だけあって、異世界に来てから食べた物の中で一番おいしい。
「うまい! うまい! うますぎますぅぅうう!」
皿に顔を付けてガツガツと食べるシロタはなんとも意地汚い。
「ミタメルは自分のスキル<伝説の家政婦>についてどこまで知っている?」
「え、<伝説の家政婦>ですか? スキル鑑定はお金がかかるので、わたしはやったことがないです」
首を傾げるミタメルに、私は以前<鑑定>したときのスキル効果を説明した。
「衝撃的瞬間に居合わせる確率が極めて高くなるデメリットがある、ですか。もしかすると、わたしのこのスキルは母から遺伝したのかもしれません」
ミタメルの母は大貴族のメイドをしていて、父は同じ貴族に仕える魔剣士だったそうだ。職場恋愛で結婚し、ミタメルとアルフを産んだ。
けれど、その後に母親は仕えていた大貴族の重大な秘密を知ってしまい、命を狙われるようになった。
父親が命と引き換えにミタメルたちを国から脱出させたが、アシュガ帝国に入ったところでアルフが魔力異常症を発病。母親もこの街に着いてすぐに病で亡くなったそうだ。
それからは蓄えを切り崩して魔力抑制剤を買っていたが底をつき、冒険者ギルドで私に出会ったそうだ。
……十代半ばぐらいだろうに、ハードな人生を送っているな。
「私は知られて困る秘密なんてないから。悪事も善行も金儲けもミタメルに隠すつもりはないから安心して」
「はい!」
「いや、ご主人様。悪事はやらない方向で生きていきましょうよ」
私は紙を取り出すと、アルフのスキルを書いていく。
「アルフもかなり強力なスキルを持っているから、自分が将来どうなりたいのかを今から考えさせておいて。このままだと強力な魔法使いになれそうだけど、剣術を覚えればお父さんみたいな魔剣士になれるかもしれない。戦うのが嫌だったら<計算>もあるし、商会とかで働けるんじゃないか?」
「ありがとうございます。普通は無料で鑑定してもらえませんから……」
「スキル鑑定の相場っていくらなの?」
「平民相手だと金貨20枚からですかね。貴族だと口止め料も払うでしょうから……想像もできないです」
ミタメルの回答を聞いて、私の頬が緩む。
「儲かるんだ。いいね」
「スキルを中心に鑑定できる人は少ないみたいですね。ステータス値と物品の鑑定が得意な人が多いと聞きます。人が何の鑑定を優先してできるかは神が決める……なんて噂もあります」
「そうなのか」
私みたいに<鑑定>で何を優先できるか自由に選択できる人は少ないのかもしれない。あの時も神の声が聞こえていたし。
「明日からミタメルに仕事をしてもらうけど、それと同時に<伝説の家政婦>でどんなノーマルスキルを取得するか考えて置いてね」
「分かりました。図書館で調べてみます。リリナ様の明日からのご予定は?」
「一週間でAランク冒険者になる予定だよ」
やり方は知らないけれど、冒険者ギルドのセオリー通りにやればなんとか飛び級できるっしょ!
莉々菜は冒険者ギルドをなめているが果たして……?
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