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22話 冒険者登録


 予定よりも2日遅れて、私たちはアシュガ帝国グラジオラス領へと入った。



 関所は物々しい雰囲気だったが、中に入ると色彩豊かな活気ある街並みが広がっている。人族も獣人もそれ以外の種族も歩いており、ロベリア王国ほどの種族差別は感じられない。


 気になることと言えば、武装した装いの市民が多いぐらいだろうか。



「「リリナさんお世話になりました」」



 リサとその彼氏が頭を下げる。



「別に気にしなくていいよ。お世話なんてしていないし」



 無事にアシュガ帝国へ着いて安心したのか、ふたりは穏やかな顔をしていた。



「この後はどうするの?」



 グラジオラス領の街に入ったので、ここで乗客たちとはお別れだ。



「帝都に行こうと思っています。獣人もけっこういるらしいので、職を見つけやすそうですし」


「そうなんだ。また会ったらよろしく」


「生活が落ち着いたら、今度こそリリナさんにお礼をさせてください」



 リサたちは再び頭を下げると、街の人混みに消えていく。


 数日間の出来事だったけれど、幌馬車の旅でかなり濃い経験ができたと思う。



「姉御! 冒険者ギルドに行くなら、案内しますよ」



 宵越しの狼のラザロが陽気に声をかけてきた。



「他のふたりは?」


「先輩とリーダーは、難しい話をしに騎士団へ行きました。俺は話し合いは戦力外なんで、暇なんス」


「場所も分からないし、ラザロに案内をお願いしようか」


「やっふー!」



 ラザロは元気に声をあげると、私たちを先導した。



「あっちが安くてうまい食堂で、あっちがボッタくりの魔道具屋、あれが街唯一の図書館で――――」



 忙しなく指をさしながら、ラザロが街を案内する。



「ラザロはこの街の出身なのか?」


「違うッス。でも、この街によく買い物に来ていたっすね。オレは世界樹の近くにある孤児院の出身ッス」


「あそこは荒野で何もないんじゃないの?」


「子どもを育てられなくなった親が、荒野に子どもを捨てていくんです。それを見かねた人が孤児院を建ててくれて、オレはそこで元気に育ったッス!」 



 孤児院での日々が楽しかったのだろう。ラザロの声音に悲しみの色はない。



「姉御の方こそどうなんすか? オレの予想だと、ド貧乏かお嬢様育ちなんスけど」


「ボクも気になります!」



 私はラザロとシロタに呆れた顔を向けた。



「愛し合う両親の元に生まれた子どもだったよ」



 前方に剣をクロスさせたマークの看板が見えてきた。


 そこの建物の前には、鎧を着て武装したいかにもな冒険者たちがいる。



「あれが冒険者ギルドか!」


「そうッス」



 冒険者ギルドと聞けば、結構な数の日本人のテンションが上がるのではないだろうか。



「やっぱり冒険者ギルドといえば、余計なお節介わからせおじさんだな!」


「え、なんですかそれ……」



 引いた目で見てくるシロタに私は丁寧に説明してあげることにした。



「冒険者登録をするときには、ギルド内でそこそこ強いベテラン冒険者が登録に難癖をつけて暴力を振るってくるんだ。でも、ルーキーに逆にボコられてわからせられるの。この出来事によって、初心者ながらギルド内に畏怖を植え付け、今後なめられなくなる。円滑な冒険者生活を始められるって訳よ。余計なお節介わからせおじさんは、冒険の始まりに楽しいスパイスを振りかけてくれる存在なのさ」



「へぇ。身体を張ったボランティアですね」


「この街の冒険者ギルドにもいるッスよ。ルーキーに絡みたがるおっさん冒険者が」



 ラザロは不貞腐れた顔で言った。



 ……これは期待できるんじゃなかろうか!



 私は意気揚々と冒険者ギルドの扉を開いた。


 

 建物の中は熱気が溢れ、騒がしい場所だった。壁には依頼書が貼られ、冒険者たちが吟味している。奥にはカウンターがあり、綺麗どころの受付嬢たちがキビキビと働いていた。


 簡単な酒場が併設されており、朝からアルコールの臭いが広がっている。



「日本人が想像するまんまだな」



 私はスキップする気持ちを抑え、ラザロと一緒に受付へと真っすぐ……向かえてしまった。


 ――――余計なお節介わからせおじさんどころか、誰にも引き留められることはなかった。まあ、私は大人だしね。……仕方ないね。



「エイミーさん。姉御の冒険者登録をお願いするッス」


「分かったわ」



 受付嬢のエイミーは仕事が出来そうな雰囲気を醸し出しているお姉さんだった。



 ……ちょっと違うんだよな。少し抜けている新人受付嬢みたいな人に対応してもらうのが様式美というか。



 私はそれなりにファンタジー作品を知っているので、面倒くさい客になりつつあった。



「それでは冒険者登録を開始します。私がした質問に正直に答えてください。嘘をついたことが発覚した場合は、罰則があります。最悪、冒険者資格剥奪の上に牢屋行きとなりますのでご注意を」


「分かりました」



 私が承諾すると、エイミーはペンを取った。



「ではまず、家名はありますか?」


「家名は『蜂須』です」


「名前は?」


「莉々菜です」


「リリナ・ハーチス様ですね」



 なんだか外国人っぽい名前になったぞ。



 訂正しようかと思ったが、寸でのところで思いとどまる。


 私はロベリア王国に怯えて静かに暮らそうだなんて微塵も思っていない。


 お金稼ぎのために地位も名声も積極的に高めていきたい俗物だ。日本人離れした名前ならば、ロベリア王国に私がアシュガ帝国で元気にやっていることがバレるのもを遅らせることができるかもしれない。


 謙虚、堅実? そんなものはクソくらえだ! 



「年齢と種族は?」


「22歳、人族です」


「逮捕歴はありますか?」


「ありません」



 指名手配をされているけれど、逮捕された訳ではない。故に私は嘘をついていない。



「はい。質問は以上になります」


「簡単な質問だけなんですね」


「冒険者の数がいればいるほど、その土地の防衛力となりますから審査自体は甘いです。けれど、ここは職安も兼ねているので、偽装された身分で登録をした場合は厳しい罰則があるんです」



 エイミーはカウンターの下から、説明用のフリップを取り出した。



「冒険者のランクは初心者のGランクから始まり、最高ランクは国家救済級のSランクとなっております。Dランクが中堅、Cランクからは高位冒険者の仲間入りです。登録後はGランクから始まりますが、実績を積んでいけばランクは上がっていきます」


「分かりました」


「魔物の討伐、素材の収集、護衛、短期バイトなど、依頼書はあちらの壁に毎日貼られますので、お好きなものを選んでください。ただし、基本的には自分の冒険者ランクに見合ったものしか受注できません。依頼書を選んだら、受付カウンターに来てください。詳しいご説明をギルド職員が致します」



 エイミーは鉄製のドッグタグを取り出すと、そこに別の不思議なペンで私の名前を刻んでいく。



「こちらが冒険者の登録証兼証明書です。GからDランクまでは鉄製、Cランクからはそれぞれ別の金属のタグが渡されます。再発行にはお金がかかりますので、気を付けてくださいね」


「はい」



 なんだか見覚えのある形のドッグタグだな。



「それと、ハーチス様の肩に乗っているのは魔物でしょうか? 一応、獣魔は登録する規則なのですが……」


「魔物じゃなくて精霊なんですけど、獣魔で合っているんですか?」


「せ、精霊ですか……珍しいですね。獣魔で登録しますが、特記事項に精霊と記載しておくので大丈夫ですよ」



 珍しくはあるが、精霊使いはいない訳ではないらしい。



「良かった。もうただのタヌキのフリをしなくていいんですね。黙っているのも疲れるんですよ」



 シロタは嬉しそう尻尾を振った。



「精霊の属性だけ聞いてもよろしいですか?」


「無属性です」


「無属性なんて聞いたことがありませんが……確かに白い精霊は見たことがありません。希少種なのも納得です」



 エイミーはさらさらと書類にペンを走らせ、大きなハンコを押す。



「はい。こちらで登録終了となります。何か分からないことがあれば、いつでも相談してください」


「ありがとうございます」


「あちらのカウンターでは、素材の買取や鑑定も行っておりますので是非持ち寄ってください。商人ギルドのようにピンハネなど致しませんから!」



 商人ギルドに何か恨みでもあるのだろうか。エイミーの口調は強かった。



 ドッグタグを受け取り、ラザロを探しているとギルドの中が騒がしくなる。



「お前みたいな弱そうなヤツは、冒険者登録なんてまだ早いんだよ」



 これは……余計なお節介わからせおじさんの予感!


 私はウキウキしながら、人をかき分けて騒動の起きている場所へと駆け寄った。



「悪いことは言わねぇ。やめときな」



 声の主は、使い込まれた鎧と武器に頬の傷と世紀末戦士かと思うようなゴリゴリマッチョな肉体……私の理想的なお節介わからせおじさんだった。



「た、短期バイトをしに来たんです! アシュガ帝国の冒険者ギルドは、子どもだって登録しています」


「嘘を吐くな。子どもたちがやるような小遣い稼ぎじゃなくて、魔物討伐の依頼でも受けるつもりだろう」


「でも、わたしにはお金が必要なんです!」



 お節介わからせおじさんに絡まれていた女の子は、涙目だが決意の籠った声で言い返した。


 私は何か心に引っかかり、なんとなく彼女を<鑑定>する。



*********




名前:ミタメル


種族:人族


ユニークスキル

伝説の家政婦


ノーマルスキル

料理A 洗濯A 掃除A



<伝説の家政婦>

料理・洗濯・掃除を高ランクで習得でき、かつ4つのノーマルスキルを自由に選択し高ランクで習得できる。

ただし、衝撃的瞬間に居合わせる確率が極めて高くなるデメリットがある。




*********



 理想的な私のメイド長候補きたぁぁぁあああ!




莉々菜が冒険者ギルドに入ってきた時の印象。


莉々菜(お節介わからせおじさんに会いたい!)


冒険者A(なんだあの強者のオーラは。やべぇヤツが来た。絶対に関わりたくない。普段通りを装って様子見しよう)


冒険者B(すげぇ美人だし、いい尻しているじゃねーか。……だが、暴れ馬鹿のラザロに慕われているな。ただものじゃねーな。関わらんとこ)


余計なお節介わからせおじさん(強そうなヤツが入ってきたな。冒険者ギルドはそうじゃなくっちゃな!歓迎だ)




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どのミタかなー 無表情、女装、大穴で噂好きのおしゃべり たぬたんもイイけど、新キャラ楽しみです
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