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21話 逃亡OLとヘルスコーピオンとおじさん 後編


「本当にありがとうございます。リリナさんはわたしたちの恩人です」


「おかげさまでリサと一緒に人生を歩けます」



 リサとその彼氏は涙ながらに私へ頭を下げた。



「自分のためにやったことだから気にしなくていい」



 すでにリサたちにかけられた魔物寄せの薬はスキル<転移>で身体からはがした。


 なので、追加で他の魔物が寄ってくることもない。



「さすが姉御! かっけーッス」


「あんなに鋭く無駄のない剣術は初めて見ました。それだけでなく、かなり威力の強い魔法も使えるなんてすごいですよ」



 間近でヘルスコーピオンとの戦いを見ていたからか、大剣の少年ラザロとローブの青年ハインツは親し気に話してくる。



「下手をすれば、魔物寄せの薬で興奮したヘルスコーピオンが暴れて全滅していた。本当にありがとう。リーダーとして感謝している。



 冒険者のリーダーの名前はレゾット。ちなみに冒険者パーティーの名は『宵越しの狼』で、戦いが終わった後に自己紹介をされた。


 本当はアズーロの街で出発前に自己紹介されたらしいが、興味がないので私が覚えていなかったのだ。



「いや~、リリナお嬢ちゃんはかなり強いの。A級冒険者にもなれるぞ。そしたら、ネームバリューがあるし、商人になっても大儲けじゃ!」


「姉御ならS級冒険者にもいずれなれるぜ!」

 


 それはいい考えかもしれない。冒険者ギルドがよくあるファンタジー作品と似ているのなら、高ランク冒険者になったら宣伝効果が期待できて、後ろ盾も土地勘もない私が他人に信用され、ブランドイメージをつけられる。


 自分で言うのもあれだが、私はかなり戦闘に適正があるし。



「騒ぐのはやめにして、今日はもう休もう。明日、交代で馬に乗ってもらいながら目的地へと向かうことにしよう」



 レゾットの決定に御者と乗客たちは頷いた。


 幸いなことに、乗客のテントや煮炊きの道具などは人族のおじさんに盗まれていなかった。まあ、嵩張るし高く売れないからだろうけど。



「それにしても、儂のアイテムバッグとリリナお嬢ちゃんのアイテムボックスがあって良かったの!」



 リアンドロさんの言葉に私は頷く。



 人族のおじさんは、乗客の貴重品や売り物、それに食料や水を盗んでいたのだ。あのままリサとその彼氏を置いて行ったとしても、食料不足で他にも脱落者がでていたかもしれない。



 アシュガ帝国で有名な商会を営んでいるだけあって、リアンドロさんの備えは潤沢だった。


 ボロの巾着にしか見えないそれは、ダンジョンでしかとれない希少なアイテムバッグという魔道具で、小さな家一軒分の荷物が入るのだという。


 アイテムバッグの中にはもしもの時用に水や食料、毛布なんかも揃っていた。


 私も微力ながら温かい食事を提供することにする。



「それでは皆さん、おやすみなさい」



 笑顔で挨拶をすると、私はテントの中に入った。そして、シロタが寝た後、誰にも見つからないように<転移>した。




   ☆

 



 夜の荒野は冷たい風が吹く。真っ暗闇だが遮蔽物がほとんどなく、スキル<視力><聴力>の力を使えば割と簡単に目的のものを見つけられる。


 たとえばそう。人族のおじさんとか。



「こんばんは。気持ちの良い夜ですね」



 馬から降りて乗客から盗んだ食料をかじり、のんきに焚火をしている人族のおじさんに私は声をかける。



「お、お前、どこから!?」



 飛び跳ねて尻もちをつく人族のおじさんを私は見下ろした。



「私、反省しているんです。怪しかったり、煩わしかったり、気になったらすぐに<鑑定>するべきだったなって」


「何を言って……」


「スキル<鑑定>」

 


 

********* 



名前:ブリス


種族:人族


ユニークスキル

<透明化E>


ノーマルスキル

<気配遮断G>



<透明化E>

 1日に10分だけ自身を透明化する。


<気配遮断G>

 魔力があるかぎり自身の気配を遮断することができる。



*********

 


 スキル<鑑定>のレベルが上がったおかげか、スキルに対してかなり詳細な情報が得られるようになったようだ。



「ユニークスキル<透明化>か。とてもいいものをお持ちです。<気配遮断>も低レベルとはいえ、盗みには最適みたいですね」


「ス、スキル<透明化>!」



 人族のおじさんは焚火を足で蹴って消すと、<透明化>のスキルを使う。


 見事に人族のおじさんの姿が見えなくなった。


 ……だが、砂の上・・・に足跡がついたので、人族のおじさんの位置が簡単に把握できる。



「逃げるな、おじさん」


「かはッ」

 


 私は人族のおじさんを軽く蹴り上げた。すると、衝撃で透明化が解ける。


 足跡を残した砂はスキル<サンドアーム>で作り出した。詠唱いらずで、地面に触るだけで発動する。色々と戦闘で使いどころがありそうだ。



「この暗闇でなんで……」


「おじさん。私のこと殺そうとしたよね」


「すまなかった! この通りだ! お願いだから殺さないでくれ」



 土下座をする人族のおじさんを、私は大きな声で笑った。



「勘違いしないで。私は感謝している」



 人族のおじさんの着ている服のポケットから、丸い羅針盤を取り出す。


 そして、私は人族のおじさんの荷物を漁った。高級そうな腕時計や、骨董品、女物のアクセサリーなんかが入っている。



「これは盗品か? おじさんの犯行はかなりやり慣れていたし」



 私は盗品らしき物を自分のアイテムボックスに入れた。どこか遠くで売ろう。



「あとは、乗客の荷物も回収してっと」



 馬に括り付けられていた荷物の中から食料と水だけを取り出し、盗品がなくなって空になった人族のおじさんのバッグに詰める。



「これだけ食料と水があれば、おじさんも結構生きられるな」


「……助けて、くれるのか!」


「うんうん。命だけは助けるよ」



 私は人族のおじさんに手をかざしスキルを<転移>で奪い取る。



*********



▶ラズロからスキル<透明化E><気配遮断G>を転移しました。



*********




「私を殺そうとした奴のスキルは奪っていいって決めていたから、おじさんと一緒に旅ができて本当によかった」


「――――お、俺のスキルがぁぁあああ」 


「うるさいな」



 私は人族のおじさんを、昨日通ったできるだけ何もなくて方向感覚がなくなる荒野に<転移>させた。


 馬と羅針盤とランプもない状態で、自分が正しい道を進んでいるのか、それと遠ざかっているのか正確に分かるはずがないし、魔物だって出るかもしれない。


 ただ幌馬車で通っただけの道から果たしてアシュガ帝国の街に人族のおじさんは着けるのか。



「水と食料は1週間分あるし、きっと大丈夫だな」



 私はスッキリとした顔で、馬と一緒に野営場所へと<転移>で帰った。




 そして翌朝。



「馬が帰って来たぞ! 乗客の荷物もある!」


「これが帰巣本能ってヤツか。マジで利口な馬だぜ!」


「これでより安全に出発できます」



 冒険者たちの明るい声で私は目覚めた。



「嬉しい知らせですね、ご主人様!」


「結局、丸く収まって良かったな」



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