表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/58

17話 逃亡OLと数百年ぶりの祝音


 宿の部屋に戻ると、私はシロタを檻から解放した。



「出てもいいんですか?」


「もう従業員を気にする必要もなさそうだから」



 私はアイテムボックスを開き、きのこうどんと腸詰めの盛り合わせ、お任せサンドイッチ、ワインを取り出した。


 そして私はきのこうどんをすすり、シロタはサンドイッチを食べ始める。



「まともな食事なんて、何年ぶりでしょうか!」



 シロタは泣きながらサンドイッチを食べている。なんて惨め姿なのだろうか。


 わたしはシロタから視線を外し、きのこうどんを見る。澄んだスープに、地球の物とは違う様々な形のキノコが浮いている。



「さて、いただきますか」



 うどんをすすれば、慣れ親しんだ小麦の香りと、風味豊かなきのこの味が広がった。


 醤油ではなく、塩味らしい。これはこれでおいしい。


 お腹が空いていたこともあって、私はきのこうどんを一気に平らげた。



「そうだ。食堂であったことを話すわ」


「え?」



 私が食堂でアズーロの街のボスに恩を受ける話を聞くと、シロタは頭を抱えた。



「目を話したらすぐにこれですよ!」


「私からいくつかシロタに質問があるんだけど」


「ボクの意見は聞かないんですね。分かってましたよ!」



 ぷりぷりと怒るシロタに腸詰めを一本あげた。シロタは犬っぽく尻尾を振る。



「精霊って不死なの?」


「不死ではありませんが、神の定めた寿命や使命を全うするまで何度殺されても生き返ります」


「使命、ね」


「大多数の精霊は世界の魔素――――自然エネルギーみたいなものを循環させる役目があります。魔素は火・水・風・土・光・闇の六属性の性質を持ち、精霊は自分の属性の魔素しか運べません」


「無属性のシロタは何を運んでいるの?」


「何も運んでいませんよ。精霊界では無能なんて呼ばれていて……スキルも何一つ覚えられなかったし」



 シロタは一瞬闇に落ちた表情を浮かべるが、すぐに笑みを浮かべる。



「でも、ご主人様のおかげでボクに初めてスキルが使えるようになったんです!」


「そういえばスキルも整理したいな。……使わなそうなのをシロタに転移させてっと」



 私はご主人様権限でシロタのステータスを開く。




*********



名前:シロタ

性別:無性

年齢:110歳

種族:無の精霊


レベル:1

HP:15/20

MP:20/20


筋力:1

攻撃:1

防御:4

知力:3

素早さ:1

幸運:1



ノーマルスキル

毒耐性C 毒の牙F 料理D 農業C 


魔物解体F 釣り人B



*********



「スキルが増えました! 一生付いていきます、ご主人様」


「現金なタヌキめ」



 シロタはスキルの一時保管場所に便利だな。基本的には死なないし、契約しているから逃げられることもなくスキルの紛失はしない。シロタ自身も積極的に偵察や身代わりに使える。



「質問の続きなんだけど、この世界に日本食――――異世界料理があるのは、勇者の影響?」


「そうですね。料理に限らず、異世界の知識は世界に根付いていますよ。ただ何度か世界を揺るがす災害や戦争があったので、そのほとんどは消えてしまいましたが……」


「へぇ。ビジネスチャンスは転がっていそうだ」



 私は地球とさほど変わらない味のするワインを一気に飲む。


 そしてアルコールで顔が熱くなってきたところで、バジリスクから奪ったスキル<毒魔法>の呪文を唱える。



解毒ポイズン・ヒール



 顔の熱さが一気に引いた。アルコールを毒だと認識すれば消せるらしい。これはいい魔法だ。




「ご主人様! ボクは心を入れ替え、誠心誠意お仕え致します」



 突然、シロタが私の前で跪いた。



「今までは誠心誠意仕えていなかったんかい」



 やはりこのタヌキは態度が悪い。



「そそそ、そんなことよりも! ご主人様の野望……じゃなくて夢を教えていただいてもよろしいでしょうか! ご主人様の夢はボクの夢となりますので!」


「夢は総資産一兆円。大きな庭付き一戸建てで、メイドと執事に傅かれて大きな犬を飼う」


「せ、世界征服とかじゃないんですね。良かった」


「そんな維持費がかかりそうなことする訳がないだろ」


「維持費を越えるお金が稼げたらするんですね」


「当たり前だろ」



 私はシロタに飽きれた目を向ける。




「……そろそろ寝るか。明日は早いし」



 夕食を食べきると、私は久方ぶりにまともな寝床で睡眠をとるのだった。




   ☆



 翌朝。私の部屋には、盗賊とチンピラたちから巻き上げた戦利品の査定結果が届いた。


 結果は締めて金貨1354枚。重いので、大金貨――――だいたい金貨の10倍ぐらいの価値――――を135枚と金貨4枚を受け取る。


 紛失が怖いので硬貨はそのままアイテムボックスに詰めた。


 そして市場に出て、食料などの日用品、本などを買い込んだ。



「アズーロの街名物、闇市が気になるけどさすがにこんな朝からやってないか。時間もないし」


「串焼きうまーい!!」



 裏社会のボスにも会っているので、遠慮する必要もないとシロタには自由にしゃべらせている。オーラが弱小だからか、特に騒ぎにもなっていない。


 シロタはすっかりまともな飯が気に入ったらしく、屋台を見てあれやこれやと欲しがった。まったく、遠慮のないタヌキだ。



「一番安い串焼きが銅貨1枚、パンが銅貨2枚、おしゃれな大皿が銀貨1枚、魔導書が金貨5枚……」



 市場に並んでいる品物を見ながら、硬貨の価値をだいたい日本円に当てはめてみる。その結果はこうなった。



 銅貨1枚 100円


 大銅貨1枚 1000円


 銀貨1枚 5000円


 金貨1枚 10,000円


 大金貨1枚 100,000円




 大金貨の上には白金貨というものがあるらしいが、市場では取り扱っていないらしい。貴重なものだと思われるので、価値は分からない。


 ちなみにこの世界のお金はすべての国で統一されているらしい。通貨単位はルネロだ。市場では主に硬貨の枚数でやりとりしているが。


 とはいえ、硬貨の枚数だけではいまいち自分の所持金がいくらなのかが分からない。



「……不便だな。もう少し分かりやすくならないものかね」



 私が呟くと、脳内で祝音が響く。



*********



 ▶勇者の要請により、ステータス欄に所持金の欄が追加されます。


 ▶みんなでステータス欄を確認しましょう!



*********


  


 市場の熱気の質が変化し、人々が一斉に「ステータスオープン」と口に出す。



「ご主人様。どうやら神の声が一般人にまで一斉に通達されたようです」


「なんにしても確認か。ステータスオープン」




*********


名前: 蜂須 莉々菜

性別:女

年齢:22歳

種族:異世界人


所持金:21,517,400ルネロ /  10,030,856円


レベル:71

HP:12070/12070

MP:10295/10295


筋力:1278

攻撃:1775

防御:710

知力:852

素早さ:923

幸運:497



レジェンドスキル

勇者G


ユニークスキル

転移D 天下無双 アイテムボックス 毒魔法S 石化E


ノーマルスキル

打撃A 聴力B 剣撃A 短剣術A 嗅覚E 


棍棒術A 弓術C 視力D 身体強化B 風魔法A


鍛冶D 直感A 剣術B 加速B 指揮官C


土魔法D カリスマG 魔物使いE 体術C


精霊使いG 槍術E 火魔法E 鑑定C


悪食A 怪力B スタミナC 石化耐性D




*********



「確かに所持金の欄が増えている。使いやすくなっていいな」



 私がホクホク顔でいるが、周囲の人々の様子は違う。祈るようなポーズを取ったり、焦っていたりと、かなりイレギュラーな事態だということが、異世界人の私でも感じられた。



「ああ、神よ。わたしたちを見捨てていないのですね……」



 近くにいたボロボロの服を着た獣人が泣きながら懸命に祈りを捧げている。



「あれは獣人族の奴隷ですね」


「この世界で奴隷は普通なの?」


「奴隷制を採用しているかは、国によって違いますね。ロベリア王国は採用しています。借金だったり、犯罪だったりで身を落とした人が奴隷になります。獣人族は神の怒りを買った種族として各国で虐げられていて、奴隷の数が一番多い種族ですね」


「ふーん」



 私たちは騒がしい市場を抜け、昨日とは反対側の関所へと向かった。



 関所では、幌馬車がいくつか停まっている。異世界の馬車は馬みたいな魔物が引くらしい。たぶん家畜化された魔物なのだろう。



「リリナさん!」



 こちらに走ってきたのは、アズーロの街の裏社会のボスことサイモンだ。



「遅くなりすみません。まさか数百年ぶりに神の祝音が流れるとは」


「あー、そうですね」



 この世界では一大事件なのだろうが、私にとってはいつも流れるなじみの声だ。気の抜けた返事になってしまうのは致し方ない。



「お忙しいでしょうから、要件は手短に済ませます。王宮では勇者たちの歓迎会を兼ねたパーティーが開催されるそうです。勇者たちはエリーゼ姫に好意的で、魔王を倒すと息巻いているんだとか。これから確実にこの国は不安定な情勢となります」


「勇者たち、ね」



 もうこの国を離れるから、正直に言ってもうロベリア王国のことはどうでもいい。


 けれど、勇者召喚された高校生たちは誘拐の被害者だ。まあ、私にできる範囲で助けることができるなら助けよう。


 一応、同じ日本出身の大人として。ロベリア王家に復讐もしたいし。



「アシュガ帝国行き、もうすぐ出発するぞ!」



 御者の大声が響く。



「あの幌馬車に乗ってください。リリナさんの他には商人や移住希望の人たちも一緒です。護衛はアシュガ帝国の冒険者が務めています」


「恩に着る。ありがとう」


「恩に着せましたからね! 絶対に忘れないでくださいよ」



 最後にサイモンと握手をした。彼の手は汗ばんでいて震えていた。疲労が溜まっているのかな。



「さよなら、クソッタレなロベリア王国」



 私は誰にも聞こえないように呟くと、アシュガ帝国行きの幌馬車に乗り込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ